カスタマーサクセスチームは契約更新の数字責任を持つのか?

先の記事「Customer Success Associationのイベント2017 からの学び」の中の「64% のCSチームは売上の(共同)責任を持つ」。 この数字「え、収益責任もったら自己矛盾に悩まない?」と驚きでしたが、皆さんいかがでしたか?

 

私はハイタッチ of ハイタッチな経営コンサルティング、中でも大企業のリテンションモデルに10数年携わりました。正直クライアントを深く理解するがゆえ、今ここで営業アクセルを踏むべきか悩ましい局面は多かったです。

 

でもある記事に出会い、そんなモヤモヤがすっと消えました。今回はその記事を紹介します。

 

論点は「契約更新の数字責任をだれが負うのか?」ですが、結果としてカスタマーサクセスはどこまで責任をもつのか?が議論です。現実は様々な事情がドロドロ試行錯誤されるテーマだと思いますが、議論はシンプルにモデルを3分類し、それぞれの特徴・良し悪しを紹介します。

 

経験豊富なパネル3名の実例に基づく議論なのでリアリティが高く理解もしやすいので、ぜひ皆さん自社の状況と重ね合わせてお楽しみください。

 

なおカスタマーサクセスの組織全般については記事「カスタマーサクセス組織のいろいろな形」が参考になります。是非そちらもご参照ください!

 

注:Wootric社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。


 

誰が契約更新の責任を負うべきか?

 

SaaS契約から1年経ち、契約更新の時期を迎えます。さて、誰が担当しますか? アカウント担当役員? CSマネージャー? それともアカウントマネージャー?

 

端的に言うと「場合によります」。

 

もう少し丁寧に言うと「場合によるし、変化もします」。

 

会社が成長して良い評判を確立するには、会社の規模と性質に合わせ、その時々に最適な報酬システムとチーム間の調和がとれたエコシステムが必要です。

 

アダプションに成功すれば、アップセルと契約更新は自然な流れで実現します。つまりカスタマーサクセスマネージャーが最高にいい仕事をできる環境さえ整っていれば、カスタマーとの関係における “ビジネス” 的側面は、実は誰が責任を持とうとも、それほど難しい仕事になりません。

 

8月にサンフランシスコで行われたカスタマーサクセスのミートアップでは、ClientSuccess社の創設者兼CEOである Dave Blakeさん、New Relic社のCSマネージャーである Angeline Felixさん、Cloudflare社のCS戦略&海外事業統括である Sylvia Kuyelさんの3名が、自社組織と過去の経験に基づき、契約更新の責任の持ち方に関する3モデルについて討議しました。

 

ほとんどのSaaS企業はこの3つのモデルのどれかに該当します。すなわち契約更新の責任者の違い:アカウント担当役員、CSマネージャー、アカウント担当マネージャー別の3モデル。そして各モデルにはそれぞれメリットとデメリットがあります。

 

モデル1:アカウント担当役員/営業が契約更新を担当

 

最初に議論したこのモデルは、アカウント担当役員が契約更新に加えカスタマーとの関係における”ビジネス”側面すべてを担当するモデルです。

 

3モデルすべての実例をよく知るDave Blakeさんによれば、更新プロセスが複雑だったり、交渉するのに人手間やリソースを集中させねばならない大口アカウントが多い組織ではこのモデルが最も適しています。

 

このモデルがうまく機能する鍵は、アカウント担当役員とCSマネージャーとが強い協力関係を築くことです。Daveさんは、アカウント担当役員がCSマネージャーを秘書や単なる事務担当者として扱ってしまい、互いの間柄が悪化して憤慨が生まれ、結局カスタマーへ価値を提供できなくなるという残念なケースを何度も目にしたそうです。

 

このモデルで起こりうる問題は、営業マン気質の強いアカウント担当役員が、将来の潜在カスタマーに目がいくばかり、既存カスタマー基盤を無視し始める可能性があるという点です。

 

New Relicの Angeline Felixさんによれば、同社では、既存カスタマーがグレードダウンした場合、そのアカウント担当役員の履歴に「黒丸」が記録されます。つまり、記録がついた役員は、アダプション期間だけでなくカスタマーのライフサイクル全体を通して関係維持に努め、良い関係を継続し続けることが何より重要である… と繰り返し言い聞かされます。

 

CloudflareのSylvia Kuyelさんの経験では「創業当初のプロダクトは1つにバンドルされていたので、アップセルがあまりありませんでした。アカウント担当役員は当然のことながら、大口アカウントの開拓に関心を寄せます。なぜなら、まず事業ユニット1つ抑え、更に他ユニットへ横展開していきたいからです」

 

逆の問題もあります。つまり、アカウント担当役員が、より容易な既存カスタマー基盤の拡大に注力しすぎ、新規カスタマーの開拓をやめてしまうことです。実際それは ClientSuccessで起きました。同社は、アカウント担当役員が新規カスタマーの開拓に注力したくなる報酬計画へと変更することでこの問題を解決しました。

 

モデル2:CSマネージャーが契約更新を担当

 

次にCSマネージャーが、エクスパンションと契約更新を含むカスタマーとの関係に基づく収益すべてに責任を持つモデルについて議論しました。

 

Dave Blakeさんによると、このモデルはあらゆる業界で最も一般的になりつつあり、Cloudflare もこのモデルだそうです。

 

ベンチャーキャピタリストの経歴を持つSylviaさんによると、ある企業の価値評価をする際、VCは定期売上のリスクを特に吟味しますが、カスタマーサクセスはそのリスク評価において非常に大きな影響力をもつそうです。さらにCloudflareでこのモデルが機能している主な理由は、すべてのカスタマーが 60日前通知付き自動更新契約であることが大きいと強調されました。

 

ClientSuccess 創設者兼CEOの Dave Blakeさん曰く

このモデルが成功する秘訣は、メンテナンス性が高くなくCSチームの経験と熟練度に左右されない、割と簡単な契約更新に適用することです。CSチームの中には、交渉経験がなかったり更新プレッシャーが苦手なチームもあります

 

大半のカスタマーに契約更新してもらうのが容易だとしても、複雑な初期契約交渉に時間を要した大口アカウントについては、アカウント担当役員を巻き込む方が理にかなってます。なぜなら彼らは同社のコンタクトが豊富な上、交渉ごとは彼らが毎日している得意技です。たとえ更新できたのは実質的にカスタマーサクセスチームの実績だとしても、大口アカウントの人たちは担当役員と長いリレーションを持っているのです。

 

Cloudflare CS戦略&海外事業統括の Sylvia Kuyelさん曰く

アダプションに関し良い仕事をしている限り、契約更新自体は交渉プロセスになりません

 

カスタマーサクセスミートアップの最新パネルに参加したCSマネージャー3人とも、エクスパンションと更新に対して強いオーナーシップを持っていました。

 

Periscope Dataの Erica Pearsonさん曰く

私は既存カスタマーの収益すべてに責任を追います。それはカスタマーと私の関係そのものです。私は彼らのパートナーなのです

 

カスタマーサクセスの仕事はカスタマーへ価値を提供することであり、契約更新は、良い仕事をしたカスタマーサクセスマネージャーが得るべき報酬の一部です。

 

Cloudflareでは、カスタマーサクセスマネージャーにすべての責任を持たせると彼らの作業負荷が大きくなることも認識しています。同社ではカスタマーサクセスのグローバル目標を設定し、その達成結果は報酬に反映されますが、その計算は決して個人単位に行いません。なぜなら各カスタマーサクセスマネージャーが自分のカスタマーを独占するような自体を避け、もしある1日や1週間に負荷が集中したカスタマーサクセスマネージャーがいれば、マネージャー同士が助け合うようになる仕組みを取り入れたいからです。

 

カスタマーサクセスマネージャーにすべての収益責任を持たせることをためらう企業も多いです。そうするとカスタマーサクセスマネージャーがカスタマーから「信頼されるアドバイザー」という役割を担えなくなるのではと心配するからです。

 

しかしDaveさん、Angelineさん、Sylviaさん 3人とも、そのような考え方は間違っていると自らの経験に基づいて否定します。カスタマーは実は契約事についても親身に話ができる「信頼できるアドバザー」を求めていて、契約だけ営業マンが担当するのを好みません。カスタマーは自分たちの事業をよく理解してくれる人が常にそこにいて欲しいのであり、もし契約事も話せる間柄になれればカスタマーサクセスマネージャーは更に信頼されるアドバイザーになるのです。

 

モデル3:リニューアルと更新を専門に担当する営業マネージャーが契約更新を担当

 

最後は組織エコシステムに第三の組織、すなわち専任アカウントマネージャーをおき、エクスパンションと契約更新に特化させるモデルです。

 

このモデルでは、アカウント担当役員は新規開拓に注力し、カスタマーサクセスマネージャーはアダプションに注力できるという独特のメリットがあります。しかしミートアップに参加した専門家は、誰もこのモデルを熱心に勧めませんでした。

 

DaveさんとAngelineさんは、このモデルだと関わる関係者が多すぎてカスタマーが圧倒されてしまうと指摘します。一方 Sylviaさんは、「信頼できるアドバイザー」の役割と ”ビジネス”ごとの交渉担当の役割との間に分かりやすい緊張関係が発生する時はこのモデルが良い場合もあると指摘しました。ただし、これら3つの役割それぞれの具体的な責任を明確にし、報酬とインセンティブの仕組みを適切に導入することが非常に重要です。

 

WalkMeのCSマネージャーであるLana Pucketさんは、最近のCustomer Success Meetupで、このモデルに関する彼女の経験と学びを共有しました。彼女は同社で、契約更新に行き着くまでの案件全体を担当していますが、実際に契約更新の段階になるとアカウント担当役員が現れて担当します。しかし、彼女の給与の20%は更新実績に基づいている、即ち、自分の役割外の実績数値と紐付いているという点を指摘しました。

 

Angelineさんは、以前ある会社でアカウントマネージャーチームを統括した経験があり、その時はこのモデルが機能したが、各役割を担当させる人のタイプは慎重に検討する必要があると指摘しました。アカウントマネージャーは、カスタマーをケアするCSマネージャーと、営業マンであるアカウント担当役員、それぞれの考え方をバランスさせて行動できる必要があるということです。CSマネージャーの特性については別の記事をご参照ください。

 

最後は、自社仕様に最適化する

あなたの会社が販売するプロダクトや組織の成熟度、カスタマーの規模により、あるモデルから別のモデルに切り替えていく必要もあります。切り替える際は、カスタマーのニーズに合わせ、カスタマーと対峙する時のそれぞれの役割を明確に定義してください。それができれば、エクスパンションの収益は拡大し、契約更新にも成功します。

 

(原文)

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