by Orie Maruyama
2019年12月3・4日に開催される、日本初のカスタマーサクセスカンファレンス『Success4』の開催決定を受けて、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ まなび事業本部 教育機関支援統括部 部長である池田脩太郎氏をインタビュー。事業内でカスタマーサクセスを推進するに至ったきっかけや、葛藤する日々について聞きました。(取材・文:丸山央里絵、写真:雨森希紀)
売上を伸ばしていく中で、顧客の効果実感に行き着いた
−本日はよろしくお願いします。
さっそくですが池田さんの部署では、カスタマーサクセスを推進されていると聞きました。
池田脩太郎(以下、池田):
はい、リクルートマーケティングパートナーズでは、スマホやタブレット、PCで講義動画を見ながら効率的な学習ができるオンラインサービス『スタディサプリ』を扱っています。僕の属する、まなび事業本部では、スタディサプリの学校向けサービスを展開し、高校を中心に営業することに取り組んできました。
けれども、売上とともに事業成長していく中で、お客さまである先生がたの効果実感が、改めてとても大切だ、と途中で気づきました。スタディサプリは、導入後もきちんとご活用いただけなければ、翌年度にご継続いただくことはできないので。
−年間利用を更新いただけるかどうかは、大きいですね。
池田:
そうなんです。そのため、サービスを学校に納品した後、きちんと軌道に乗せてご活用いただくことを、この3年ほど事業の主要ミッションに置いて推進してきました。結果、「これって世の中の潮流で、カスタマーサクセスって言われているものじゃない?」と、後付けでラベルがやってきたというのが実際です(笑)。
−活用の継続を、主要なミッションに置くとはどのようなことでしょう?
池田:
具体的に言うと、学校向けスタディサプリの初期の指標は「売上」と、その後は生徒のサービス「登録率」でした。お申し込みいただいたある高校に500人の生徒がいたとして、そのうち何人がきちんと登録してくれるか。本来は500人が当たり前のはずですが、当時は300〜400人で留まっているケースもありました。
−せっかくお申し込みいただいても、生徒さんが登録してくれない、と。
池田:
当時の事業運営上、まだ設計が甘かったところですね。
学校の先生はとても忙しいし、生徒がちゃんと登録しているかまで追えない。それで結局、次年度のご提案をする時に、「せっかく導入したけど、活用できていないから、来年からは継続できない」となってしまう。
−活用する前に、もったいないですね。
池田:
全くです。そこで、『for TEACHERS』という先生向けの管理システムを使って、多忙な先生がたをご支援することを目的に、スタディサプリを使って今までアナログだった宿題を、オンラインで配信することにチャレンジいただけるようなご提案を始めました。徐々にその活用頻度を増やして。そして今年、生徒の登録率だけではなく、「利用率」まで追うようになりました。約3年をかけてですね。
今では先生が活用してくださった結果、生徒がスタディサプリを使い、学力が上がる。そんな成果事例がどんどん増えてきています。
−素晴らしい。「Success4」の講演では、今のようなお話を詳しく聞けるのでしょうか。
池田:
はい、おもにカスタマーサクセスな組織への変革プロセスを取り上げます。
カスタマーサクセスへの投資は、ともすると、「売上に直接貢献しない人的リソースを投入する」という意思決定をすることにもなります。経営としてROI(投資利益率)をどう判断し、組織を作り、顧客伴走の活動を事業の主軸に置くことを承認してきたのか。また、それをどう現場に近いミドルやメンバーにインストールして、カルチャーにまで昇華させたのか。この3年ほどどのように事業運営してきたのか、をお話しする予定です。
事業の意思決定のためのドライバーを探る
−実践論として、とても気になります。成功のポイントは何だったのでしょうか。
池田:
いくつかあります。その一つは、やはり「データで意思決定する」ことですね。もっといえば、「何の数値が利益を上げるのに直結するドライバーなのか」を明らかにするのが大事です。
僕らは因数分解する中で、やっぱり学校で生徒に継続的に使ってもらえることが、最も重要なドライバーだった。なぜなら高校は全国でたった5千校に限られているからです。
−限られた顧客を大切にしなければ、マーケット自体がなくなってしまう。
池田:
そう。なので、継続利用してもらうために、当時のデータで何が最も寄与しているのかを見にいった。そうしたら、一番相関していたのが、とある機能の活用率だったということです。
−ファクトを大切にされているんですね。
池田:
そうですね、ただそれだけでもなくて。会議などで議論する際、データを見れば全員が、頭では「そりゃ使ってもらうほうがいいよね」と解るんです。
でも現場を見ると、高校に一人一台端末はまだないし、Wi-Fiもないし、スマホはあるけど持ち込みNGだし。そういった市場環境で、本当に僕らが「学校現場でオンラインサービスを活用することが当たり前の世の中」を目指していくのか。かなり議論しました。
−でも決断をされた。
池田:
最後の拠りどころとなったのは、データに基づいて意思決定するということ。
そして、スタディサプリはあらゆる事業部メンバーの混合チームなのですが、リクナビやタウンワークなどの人材領域で、デジタルトランスフォーメーションを既に推進してきたメンバーの声でした。「どのマーケットでも最初は同じ葛藤があった。でも、それが今では当たり前になっている」、と。
−なるほど。貴社では、他事業でも取り組みが進んでいるのですね。
池田:
実はカスタマーサクセスの考え方って、リクルートが創業以来、連綿と大切にしてきたことにとても近しいんです。そのラベルがカスタマーサクセスになったことで、よりナレッジも深めやすくなった。
ただ、リクルートはカスタマー課金のサービス自体が珍しいので、スタディサプリがよりダイレクトに顧客価値に対して投資している側面が強いとは思います。
−スタディサプリの他にも、動きはありますか。
池田:
数年前からSaaS関連を切り出した社内勉強会が開かれています。
やはり成熟しているマーケットでも、今成長しているマーケットでも、既存の顧客にしっかり価値をお返ししながら、新たな対価をいただくことが大事だと思うんです。成長している事業は特に、事業基盤を安定させることにもつながりますし。
−本当にそうですね。では、最後に池田さんご自身の展望をお聞かせください。
池田:
今、僕たちがやっていることはカスタマーサクセスの完成形でもないですし、四半期ごとにKPIやミッションを変更することもあるほど、まだまだ発展途上です。そして、僕らが取り扱う教育というテーマは、解決するためにお金も人も時間もかかる、大きな社会課題でもある。
だからこそ、これからも引き続き、教育現場でチャレンジする先生がたをご支援することを通じて、「日本の教育をアップデートする」ことに、長期的に取り組んでいきたいと思っています。
日本初のカスタマーサクセスカンファレンス『Success4』2019年12月3日(火)・4日(水)開催!
『キャズム』『ゾーンマネジメント』著者であり組織理論家のジェフリー・ムーア氏、Box CCO兼上級副社長 ジョン・ヘルシュタイン氏、日本IBM 取締役兼CCO 荒川朋美氏を始め、世界のカスタマーサクセス最前線を切り拓いているリーダーたちが多数登壇する、日本初のビッグイベント『Success4』が、ベルサール渋谷ファーストで開催されます。
デジタル社会の到来とともに今、あらゆる業界で「モノ売り切りモデル」から、「リテンションモデル」へと軸足がシフトする中、購入してもらうことではなく、購入を通してカスタマーに本当の「成果・成功」を手に入れてもらうことを成功に導く考え方が「カスタマーサクセス」。
あなたも『Success4』でぜひ、変化のきっかけを掴んでください。
事前予約制。詳しくはこちらから。
(以上)