by 弘子ラザヴィ
ここ最近、SNSで何度か予告しましたが、改めて、この度、本「カスタマーサクセス(仮題)」を書きました!出版は6月の予定です。
その書籍の冒頭「はじめに」で、以下のように書きました。
本書は、カスタマーサクセスとは何か?について、初めてその言葉を耳にする人でも分かるように、その本質や重要なポイントを伝える本である。筆者は、多くの日本人が抱くだろう質問・疑問へ分かりやすく答えたいという想いで本書を執筆した。
こう書きながら、「いったい、多くの日本人が抱く質問・疑問とは何だろう?」と思考を巡らせる日が続きました。
そんな折、GainsightのCEOニックが SaaS企業のCEOからよく聞かれる質問6つを紹介する記事を読み、とても参考になったので末尾にご紹介します。
6つの質問はどれも興味深いものばかりですが、実は私が最も興味深いと思ったのは、「5年前のCEOの質問は、最近よく聞かれるこれら6つの質問と全く異なっていた」という点です。ニック曰く:
5年前、多くのCEOは、『カスタマーサクセスって本当に必要なの?』、『本当に必要だとしたら、まず何から手をつければいいの?』、『そもそも一体なぜカスタマーサクセスって必要なの?』といった質問を、いぶかる声で聞いてきました。しかし5年たった今、そういう質問は皆無(!)になりました
さて日本はどうでしょう?
残念ながら、カスタマーサクセスという言葉そのものが、まだ日本のビジネス界に全く浸透していません。推測ですが、いま日本企業の社長さんに「カスタマーサクセスという言葉を知っていますか?」と質問したら、恐らく認知率は1%未満だと思います。もちろん、SaaS企業に限定すればその比率は高くなるでしょう。しかし、カスタマーサクセスが必要なのは SaaS企業に限ったことではありません。「え?」と思った方には(こそ)ぜひ私の書籍を読んでほしいです!
戻すと、日本の現状は、5年前によくニックのもとに届いた「カスタマーサクセスって、そもそもなぜ必要なの?」という質問が生まれる以前の段階です。とはいえ、5年もかけてキャッチアップする余裕は今の日本企業にないとも思います。
さて、どうしたものでしょうか。
読者の皆さんからのご意見を期待しつつ、米国のSaaS企業のCEOがいだく最新の質問を以下にご紹介します。ぜひ皆さんの質問と比較してみてください!
注:Gainsight社の許可を頂き原文(の一部)の和訳を紹介します。
1. 評価に関する質問
カスタマーサクセス責任者には何を期待しどう評価すべきか?
カスタマーサクセスの目的の1つはチャーンを減らすことです。しかし皮肉なことに、カスタマーサクセスのプロフェッショナルたちは今、すごく多くの売上を生み出しています。そんなカスタマーサクセスを統括する責任者は、その多くが1年以内に交代しています。なぜでしょう?
CEOの多くは、どういう人材にカスタマーサクセスを任せればよいのかまだ試行錯誤中で、理想的な責任者の人材要件を見いだせていないようです。
CEOの中には、責任者1人がカバーできる能力範囲を超えた「過大な期待」をする人もいます。そこまでではなくても、多くのCEOは自分の期待値を調整中です。例えば、カスタマーサクセス責任者にもカスタマーのところにどんどん出向いもらうべきか、それともオフィスにいてもらうべきか。セールスの経験を重ねてもらうべきか、それともプロダクトに深く関わってもらうべきか。 新しい組織をゼロから立ち上げるのが得意な人がいいのか、それとも大きな組織を纏めるリーダータイプがいいのか、そういったことを決めかねています。
これはその昔、多くの企業が営業部門のリーダーに対して試行錯誤誤した経緯とよく似ています。 CEOは時と共に営業部門のリーダーに対する経験値を上げて目利き力を養いました。カスタマーサクセス部門のリーダーに対しても同じことが起きることでしょう。それにはもう少し時間がかかります。
2. 採用に関する質問
カスタマーサクセスの責任者を探しているんだが? ー 手伝ってもらえるかな?
CEOはカスタマーサクセス責任者を採用することに慣れておらず、ほぼ初めての経験です。 先述のとおり、彼らは何を見て判断すればよいのか分からず途方に暮れています。
候補者は全員が「カスタマーサクセス」という名の下にそれまでの職歴を再ブランド化しているため、候補者のプロフィールをみても差が分かりずらくてとても苦労します。その候補者はサポート分野のエキスパートなのか、それともアカウントエグゼクティブなのか。中小企業向きなのか、大企業相手でも通用するのか。その業界経験はどの程度期待すべきか、などを判断しかねています。
これはカスタマーサクセスに限りませんが、優秀な人材ほど「受動的(自分から積極的に職を探さない)」、つまり人材市場に今いま候補者として登場していません。
これはカスタマーサクセスに特有ですが、適性の高い優秀な人材は「カスタマーサクセス」と名のつかない経歴、つまりプロダクトマネジメントや事業部の業務、ないし営業など他の職業に数多く存在します。
カスタマーサクセスは新しい分野なので、我々は時々、カスタマーサクセス責任者とCEOの間にたって非公式な紹介をし、彼らが出会うのを手伝けしています。 エグゼクティブサーチ会社の中には、カスタマーサクセスの責任者クラスの紹介能力を強化するところも現れています。
3. 組織に関する質問
カスタマーサクセスは営業部門の直轄にすべきか?それとも営業から独立した組織にすべきか?
今でも鮮明に覚えています。それはある投資銀行が主催するイベントでした。投資銀行のイベントと聞いて皆さんが想像する通りの、各社のトップ・トップが集まる場所でした。
そのイベントの一環で、CEOだけが参加するハイキング企画があり、その最中に私はある公開企業のCEOから質問されました。「カスタマーサクセスは営業部門の責任者の直轄にすべきだろうか? 実はうちの営業部門の責任者が私にそうするよう強く要望し続けているんだが、私にはどう判断すべきか分からない」
こう質問されて私は、ある友人から聞いたばかりの話を彼に伝えました。その友人は、CRO(チーフリベニューオフィサー)を経験後、CCO(チーフカスタマーオフィサー)になり、その後にCCOを管轄するCROになり、その後にまた別の会社のCROになっていました。
この友人は言いました。「営業部門の責任者としてカスタマーサクセスも管轄していた時は最悪だったよ。自分としてはカスタマーサクセスにもっと時間を割きたかったのに、現実は無理だった。実際、カスタマーサクセスに使えた時間は 1週間の中でたった30分くらいだった。」
もちろん「彼の事例が必ずしもすべてではないです」と、私はそのCEOに伝えました。CROの中には、営業と同等にカスタマーサクセスに時間を割いて上手く運営している人もいます。特に、カスタマーサクセスと営業が対(つい)になる役割分担で上手く連携がとれていたり、カスタマー接点のほとんどが契約関係に限られているような場合はとても上手く機能します。
ただし同時にこうも付け足しました。大多数の企業(直感的には80%ほど)は、契約後のカスタマー経験(プロフェッショナルサービス、オンボーディング、トレーニング、サポート、カスタマーサクセスなど)に責任をもつ上級経営職(CCOはその1つ)として、カスタマーサクセス責任者を営業責任者と同格に位置付けていると。
4. 収益責任に関する質問
カスタマーの契約更新や買いあがりの収益数字に責任をもつべきは誰?
「3」の質問に必ず続く質問は、「ではいったい誰が収益数字に責任をもつのか?」です。この質問に答えるのはそれほど簡単ではないのですが、でもCEOは数字責任の話が大好きです。
私は、いくつかモデルがあると伝えます:
・カスタマーサクセス(CM)とアカウント管理(AM)の両機能への責任を統合的にもつ営業責任者(この場合、責任の所在は非常に明快です)
・2つの機能、すなわちCS(主に価値提供やアダプションに責任をもつ)とAM(主に契約更新や拡販に責任をもつ)が別々に存在し、CSはCCO管轄の組織に報告し、AMは営業部門の責任者に報告する場合、AMが収益数字への責任をもちます。そしてCSは、彼らに対し非常に重要な影響力を持ちます
・CSもAMも2つ別々の機能として存在しつつ、どちらもCCO直轄の場合はCO(このモデルが最近は優勢に見受けます)
5. 予算に関する質問
カスタマーサクセスの予算はどれくらいが適正か?
CEOの質問は更に難しくなっていきます! CEOは概してカスタマーサクセスの細部までは関心がないものの、基本ポイントをハイレベルで理解したがります。
Q:カスタマーサクセスの費用は売上原価なのか、それとも販売費なのか?
A:売上原価にすべき特別の理由がない限り、通常は販売費として扱います
Q:売上に対し何パーセントをカスタマーサクセスに費やすべきか?
A:Pacific Crest社が契約更新に要する費用に関するベンチマークデータを公表しています。それによると、ARR(年間経常収益)1ドルあたり0.13ドルです。ARRが1億ドルを超えると実際の数字は小さくなります。ARRに対するパーセンテージでいうと、1桁半ばから2桁の%数字で支出していることがわかっています。
一般的な傾向として多くのCEOは、もっとカスタマーサクセスに予算を割り当てる必要がある、特に従来の営業やマーケティングの業務効率を改善してその分をカスタマーサクセスへ振り分ける必要があると考えています。
6. プロダクトに関する質問
プロダクトはカスタマーサクセスをどう加速できるか?
ソフトウェア会社のCEOなら誰しも、事業の長期的な成功はプロダクトの良し悪しが鍵を握る、つまりR&Dこそが肝であると認識しています。 そのため、短期的な問題解決に人を投入するのは構わないと思っている一方で、R&Dに関する戦略的な話に水を向けると彼らの目が俄然キラリと光ります。
・R&Dの成果を、プロダクトのリリースだけでなく、カスタマーのアダプションや成果獲得の観点からどう評価できるか?
・プロダクトの作り込みを、カスタマーサクセスの成否を測定するのに必要なデータ入手という観点からどう工夫できるか?
・プロダクト内アプリを、カスタマーサクセスチームの成果をスケールさせるためにどう活用できるか?
・プロダクトのロードマップを、サクセスチームとプロダクトチームが一緒に完成させるためにどう協業すればよいか?
・カスタマーがプロダクトに熟達するプロセスの改善を、サクセスチームとプロダクトチームで一緒にどう磨き込めるか?
こうした質問を頻繁にされ続けた結果、私は今やこの問をよくよく考えているソフトウェア会社のCEOの1人になりました。長期的な成長を目的とした時、自社プロダクトのことを、自社にとって、だけでなく、カスタマーにとって、も含めてどう活用すべきかを考えることが何より大切です。
SaaS事業の世界で成長することを考えた時、従来の営業とマーケティングの関係が、そのままカスタマーサクセスとプロダクトの関係になると私は今、確信しています。
(原文)