再び「カスタマーマーケティング」です!
当サイトで以前、 SaaStrの創業者 ジェイソン・レムキンさんが「次はカスタマーマーケティングだぁ!」と絶叫するのをご紹介しました(「カスタマーサクセスの次にくる波:「カスタマーマーケティング」)。
米国では、まず先にカスタマーサクセスが盛り上がり、そして今「次は」で「カスタマーマーケティング」が関心を呼んでいます。
一方、日本では同時に盛り上がりを見せそうです。
Customer Success Japan (当サイト)を運営する私(弘子ラザヴィ)の元には最近、「カスタマーサクセスは私たち(マーケター)が取り入れなければならない概念だと考えています」、「カスタマーサクセスはマーケティングと親和性が高いと思います」といったコメントがよく届くようになりました。そういう方がたに「カスタマーマーケティングですよ!」と伝えると、皆さん膝を叩いて合点してくれます。
ということで、カスタマーマーケティングについても積極的にご紹介していきたいと思います。今回は、HubSpot社でカスタマーマーケティングチームを立ち上げられたエバ・クラインさんによる、とても実践的な記事です!
注:著者Eva Klein氏の許可を頂き原文の和訳を紹介します
マーケティングチーム + カスタマーサクセスチームの連携
数年前、弊社(HubSpot社)にカスタマーマーケティングの “チーム” は存在しませんでした。カスタマーマーケティングは実施していましたが、明快な責任者不在な中で複数のクロスファンクショナルチームが自律的に動いている状態でした。
同社へ入社した直後の私の仕事は、カスタマーマーケティングチームの立上げ&人員配置でした。
就任直後、私は反対勢力から軽い洗礼を受けました。同社では以前、クロスセルとアップセルの専門チームを立ち上げプロダクトを活用していないカスタマーへマーケティングを実施したが、その時はカスタマーマーケティングはHubSpotにとり重要でないことが証明された、言われました。
彼らの主張には重要なポイントが欠けていました。即ち、カスタマーマーケティングを実施する前にエクスパンションへきちんとリソースを割く必要があるという点です。要は、カスタマーマーケティングをする前に “馬の前に人参を置く” のが大きなポイントです。カスタマーを「買い増ししたい!」という気にさせられなければ、いくら買い増しを促す努力をしても無駄なのです。
最終的に、我々はカスタマーマーケティングチームへ投資することを決めました。彼らは、実は既に画期的な勝利を収めていたのです。そこからの学びは何でしょう?
カスタマーファーストなチームを構築したい場合、カスタマーと接点のある全部門が、カスタマー体験に自分たちがどう貢献できるか熟慮する必要がある、ということです。
通常、カスタマー体験はマーケティング活動の仕事から始まります。一方、マーケティングとカスタマーサクセスは、カスタマーへ約束した期待価値と実際の提供価値とを一致させるため一心同体なのが必須にもかかわらず、通常この両者はとても離れた存在として切り離されています。
マーケティングとカスタマーサクセスの間の課題は、両者間で本来生れるべき緊張関係や共有されるべき課題意識がほっておくと起きないことです。
マーケティングは契約前のリード創出に責任をもち、片やカスタマーサクセスは契約後に起こるすべてに責任をもちます。残念ながら、マーケティング担当者にとりカスタマーマーケティングは最優先事項になりません。
従い、カスタマーサクセスがオンボーディングのキャンペーンを計画したり、プロダクトのアップデート連絡を計画した時は、カスタマーサクセスマネジャー自らマーケティング活動をする必要があります。 結果は… 通常、500語の電子メールを送信するなど、効果的でない対策に陥りがちです。
決して、カスタマーサクセスの人たちを侮辱しているわけではありません! 彼らは想像以上に徹底的に思慮深く、1対1のコミュニケーションでは抜群の才能を発揮します。一方、効果的かつシステマティックで大規模なカスタマーコミュニケーションプログラムを構築するのは、マーケティングの人たちが最も得意なことなのです。
マーケティングとカスタマーサクセスがより近しい関係になる方法は3つあります:(1)マーケティングの目標をカスタマーのアウトカム(成果)で設定する、(2)カスタマーマーケティングチームを編成する、(3)セルフサービスのリソースに投資する。以下、それぞれを説明します。
1)マーケティングの目標をカスタマーのアウトカム(成果)で設定する
マーケティングの目標は定量ベースになる傾向があります。理屈はこうです。十分な数のリード案件を創出すれば、営業が巧な会話述で話を進め、結果的に最良カスタマーと契約をクローズできる、のです。
現実問題として定量目標を基に活動すれば、どうしても質がないがしろになります。即ち、無料プロダクトに100人サインアップし、10人がオンボーディングし、2人が有料カスタマーになる、というシナリオを設定すると、どうしても “数” に目が行きます。しかし “数” でなく、プロダクトフィットのより高いカスタマー、つまり “質” を重視し、できればそれを目標とするのが理想です。
マーケティングチームの一部のメンバーが常にリード創出に集中したとしても、それ自体は問題ではありません。企業は常に一定量のリード創出が必要です。もし月に5本のリードしか創出できなければ、カスタマーマーケティングチームに投資する必要はありません。
その上で、マーケティングチームを、リード創出に専念するチームと、カスタマーアウトカム創出に専念するチーム(つまり、カスタマーマーケティングチーム)に分け、それぞれの目標をバランスさせて設定するのは可能です。
その時に重要なのは、マーケティングチームがカスタマーのアウトカム(成果)指標に基づき活動することです。つまり、プロダクトの利用状況、アダプション、エクスパンションなど、カスタマーが “成果” と認めるものを測る指標です。
このような指標に基づく目標を達成するため、マーケティングチームはカスタマーサクセスチームとの間にフィードバックループを設定する必要があります。以下は同2チームが考える「理想カスタマー」を一致させる良い方法です:
解約および更新分析
既存カスタマーのうち、解約したグループと、更新したグループを分けて、それぞれをディープに分析してください。共通項は何ですか? 共通のニーズが浮かび上がりましたか? 解約するカスタマー全員が必ずしもプロダクトフィットがないというわけでもありません。例えば、プロダクト信頼性が不足したのかもしれません
センチメントベースのセグメンテーション分析
もしカスタマーからフィードバックをプロアクティブに収集していないなら、今すぐ収集しましょう。私たちの会社では四半期毎に正式なNPS(ネットプロモータースコア)調査をしていますが、それ以外にもソーシャルメディアの感情分析などは直ぐ実施できるよい方法です。あなたのプロダクトのプロモーターとディテクターがそれぞれどういう人なのか特定し、それぞれの共通点を見出しましょう。
人口統計的ガードレール分析
上述2つの分析をする際は、人口動態にも注意を払ってください。プロモーターまたはディトラクター群に何度も何度もポップアップする業界、年齢層、学歴などありますか?
そして本丸の、マーケティングチームが注意を払うべきカスタマーアウトカム(成果)は以下の通りです:
プロダクトの利用度合い
プロダクトの新機能ロールアウトを計画中ですか? プロダクトのどの機能がリテンションと相関しているかご存じですか?
プロダクトの利用度を上げることにマーケティングの人たちの関心を集中させてください。
プロダクトの全体的なアダプション及びアクティベーション度合い
オンボーディングはカスタマーライフサイクルにおいて最も重要なフェーズです。彼らをここで釘付けにする必要があります。
マーケティングは、カスタマーがプロダクトを利用している全期間を通じユーザーを動かすキャンペーンを展開する必要があります。オンボーディング経験を実体験するためプロダクトチームと直接連携してもよいでしょう。
成果ベースのオンボーディング度合い
オンボーディングに成功したカスタマーがオンボーディングプロセス中に取ったアクションのうち、成功しなかったカスタマーがとらなかったアクションに注目し、その共通項を踏まえてオンボーディングプロセスを再構築しましょう。
定義した特定マイルストーンを達成するまで「カスタマーがオンボーディングに成功した」と考えてはいけません。
エクスパンション度合い
エクスパンション、またはクロスセルしてくれるカスタマーを特定しましょう。
マーケティングチームは、トリガーイベントを開発してあるカスタマーがプロダクト買い増しの準備OKなことを示す「通知」をし、その機会が生じた瞬間を捉えるワークフローを作成する必要があります。
以上がマーケティングチームの注目すべきアウトカム指標です。これら指標へは C-レベルがコミットする必要があります。
CMO(チーフマーケティングオフィサー)の主要な目標は、会社にとって持続可能な新事業の源泉を生み出すことです。彼らは営業チームから絶えずリード創出プレッシャーをかけられてます。
短期的には、カスタマーのアウトカム(成果)に注力してもリード創出の量は増えません。しかし長期的には、チームがカスタマーのアウトカム(成果)に重点を置くことで、より幸せな成功したカスタマーが増えていきます。即ち、より更新してくれる可能性が高く、クロスセルとアップセルの良い候補者であり、更にブランドを宣伝したりサービスを周囲に紹介する意欲が高い人たちの基盤が出来上がるのです。
そうした基盤をパワフルなものにするには、カスタマーマーケティングチームの力が必須です。それが次のポイントです。
2)カスタマーマーケティングを編成する
最も良い本質的な方法は、マーケティングチームを、ハンターチームとファーマチームに構造化することです。言い換えれば、マーケティングチームの一部には新リード創出に専念してもらい、残りはカスタマーアウトカムに専念してもらうのです。一人の中で担当する役割を分けるのでなく、チーム自体を役割で分けるのです。結局、一人に異なるいくつもの役割を持たせるのは事実上機能しないということです。
カスタマーマーケティングチームが取り組むべきことは次のとおりです:
既存カスタマーのリード創出
クロスセル、アップセル、エクスパンションの機会に最も密接に関連するトリガーイベントを特定し、パイプラインを構築して営業チームに引き渡す
既存カスタマーの成功支援
契約にサインした状態のカスタマーを、プロダクトを活用して成功を手にする状態にまで育て支援する。具体的には、教育リソースを作成したり、オンボーディングキャンペーンを企画・展開したり、カスタマージャーニーマップを作成するなど。
カスタマーコミュニケーションの統括
プロダクトのバージョンアップデート、サービス停止、カスタマー重視キャンペーンなど、あらゆるコミュニケーション戦略を策定する際の「ゲートキーパー」としての役割を果たす
既存カスタマー基盤の活性化
紹介プログラム、オンラインレビュー戦略、カスタマーボイスや事例の作成、ブランド拡幅などを通じ、既存カスタマーを自社ブランドのプロモーターにする
3)セルフサービスのリソースに投資する
進歩の流れは常に利便性を優先します。ある場所から他の場所にどう移動したか考えてみましょう。50年前、あなたの選択肢は、徒歩、自転車、運転、または公共交通機関を利用することでした。その後、私たちは路上で呼び止められるタクシーを発明しました。今日、いつでもオンデマンドで乗車サービスのオーダーが可能です。
あなたのカスタマーも全く同じ変化を遂げています。彼らはベンダーとのやりとりに全く同じ視点をもちこみます。現代のバイヤーは、あなたの助けを待ちません。待たない代わりに、彼らは自分自身で解決しようとします。
この変化はカスタマーサクセスチームにとって歓迎すべきことです。カスタマーがプロダクトの一部を自分で設定したり、請求情報を変更するなど、一般的かつ反復可能な問題をセルフサービスで実施できるようになれば、サクセスチームの時間はより複雑で人の介入が必要な問題に集中投入できるのです。
以下はセルフサービスに適した分野の例です:
オンボーディング
カスタマーマーケティングチームが、再現可能なオンボーディングプロセスの進め方をカスタマーにマスターしてもらう学習キャンペーンを展開します。そうすることで、カスタマーサクセスチームの時間を、全体戦略やカスタマイズ実装など、より複雑な問題に割くことができます。
ナレッジベース
カスタマーサクセスチームにインタビューし、頻繁に問い合わせのある質問(価格やパスワード変更など)は何かを明らかにしましょう。そしてまずはFAQ形式で質問と答えを纏めた軽量ページを作成しましょう。時を経てFQAがたまってきたら、今度は検索可能でより厚みのあるナレッジ基盤のサイトにこれを組み込みましょう。そうすることでプロダクトやサービスに関するより広範囲なFQAをカバーすることができます。
カスタマーネットワーク
カスタマーがある一定数まで増えたら、彼らが互いに助け合う場/手段を用意することを検討し始めましょう。カスタマー同志が問題や成功事例を共有できるフォーラムやグループを作成することで、全く新しい素晴らしいサポート体制を築くことができます。
これらの資産を築くには先行投資が必要ですが、長期的にチームの時間とエネルギーを多いに節約できるため、投資する価値は充分あります。
以上、マーケティングとカスタマーサクセスがより近しい関係になる3つの方法をご紹介しました。
マーケティングとカスタマーサクセスは長らくカスタマーライフサイクルのこっち側とあっち側、つまり正反対に位置づくと考えられてきました。しかしだからといって、ずっと離れたまま機能する必要は全くありません。
マーケティングの人たちをカスタマーのアウトカム(成果)と結びつけることは、1つのスコーンを2羽の鳥に分け与えることと同じです。より良いカスタマー基盤を構築できれば、そこから質の良いカスタマーが生まれ、最終的には口コミ紹介してくれたり新規リードを持ち込んでくれる、マーケティングチームにとって有難い貴重な情報ソースになるのです。
そして、それこそが「カスタマーファースト」の素晴らしい点です:即ち「誰もが勝つ(winする)構図」なのです!