カスタマー4万社の NPS 75 を実現する方法

中小企業向け給与計算、給与管理、人事管理プラットフォームを提供するGusto社のCEO ジョシュア・リーブス氏と、同チーフ・カスタマー・エクスペリエンス・オフィサー(CCEO)のレキシ・リース氏が、4万社を超えるカスタマーのNPS 75を実現する秘訣をお話しします。

 

ネットプロモータースコア(NPS)はご存知の通り、だいたい平均30で、50を超えればとても良い、75を超えると驚異的に素晴らしいといわれます。(参照「ネットプロモータースコア(NPS)の歴史と活用法」、「NPSをフル活用する5つの戦略」)? 余談ですが、私の知る最も高いNPSはテスラ社のNPS 96です。

 

彼らのいうNPS75の秘訣は、一言でいうと「正道を行け」。
1. 戦略に基づきプロダクトを思いきり尖らせろ
2. 売ってはいけないカスタマーに嫌われる覚悟でターゲットを絞れ
3. ユーザーの声を常に聞き、優秀なチームをつくり、改善ループを何度もまわせ
4. 火消しに始終せず、根本的な課題を絶対放置するな
5. 譲れない所の投資は死守せよ

 

上記すべて徹底してもNPS75は無理なことも多いと思います。とするとやはり「プロダクトが優れている」が出発点として最も大事だと思います。プロダクトが悪ければ、カスタマーサクセスで必死に原石を磨いても所詮ガラスだからです。

 

個人的にレキシさんの発言で一番興味深かったのは「NPSは戦略ではありません。経営指標にもすべきでないと個人的には思っています」です。

 

さて皆さんは何をお感じになるでしょう?

 

 

注:SaaStr社の許可を頂き動画(9:15以降のレキシさんプレゼン部分)の和訳を紹介します


 

カスタマー4万社から NPS 75 を獲得する方法

 

私からは「どうやってカスタマー4万社のNPS 75 を達成するか」の方法論をお話しします。

 

最初にお断りしますと、私自身は、NPSは企業経営における重要な指標にならないと思っています。ご承知と思いますが、この論点はよく議論になります。

 

NPSは驚くほど素晴らしい調査ツールです。部門横断で意味ある会話が生まれるキッカケになります。従業員がイキイキと働き甲斐をもつには何をする・やめるべきか考えるキッカケにもなります。カスタマーだけでなく従業員にも、あなたの事を気にかけていますよ、というメッセージを送れます。

 

一方、カスタマー体験について書かれた名著「Uncommon Service?」、皆さんご存知ですか? NPSの本質がよく捉えられていて、私も共感する所が多い著書ですが、その著者であるフランシス・フレイさんはこう言っています:

 

”NPSは信条に基づくものであって、根拠に基づくものではない”

 

信条に基づく指標は人材、資本ほかへの多額の投入に向かいますが、その結果、目覚ましい進歩も費用対効果の高い成長ももたらしません。

 

さて本題に入ります。

 

事業が素晴らしい財務成績を達成し、同時にあなたのプロダクトが大好きで大好きで周囲に話したくて仕方ないというカスタマーを引き付けるために、答えなければならない5つの質問についてお話しします。

 

 

質問1 あなたの戦略は何ですか?

戦略なんて何も無い、ということは絶対にありません。少なくともプロダクト戦略はあるはずです。市場開拓戦略もありますね。

 

でも「あなたのカスタマー体験戦略は?」と聞くと大抵の人は、「そうですね、NPSかCSAT」と答えます。

 

ハッキリ言います。NPSやCSATは戦略ではありません。今からお話する内容が戦略です。

 

提供するサービスでプロダクトを差別化するのか、それともプロダクト以外で差別化するのか、皆さん自分の事業についてよく分かってますよね。

 

私たちの会社 Gusto社は、非常に尖ったプロダクトをもっています。そのお陰でネットワーク効果の恩恵を受けています。サービスやカスタマー体験は後からついてきます。

 

「Me, too ー競合を完璧に真似る」も立派な戦略です。この戦略をとる方いらっしゃったら手を上げて下さい。ライトが眩しくて見えないですけれど。

 

最近、メチャクチャ酷い経験をした人いますか? 酷いカスタマー体験について語れる経験ある人、手を上げて下さい。「オー・マイ・ゴッド!」という経験です。通信会社、ケーブルテレビ会社、あとよくあるのは航空会社です。「信じられない!並んでいたのに。答えを待っていたのに。解決しなかった!」という人、何人いますか?

 

断言します。そんな企業もNPSを真面目にトラッキングしています!

 

社内ポスターや、少なくとも十数頁はあるスライドで名言しています:”大事なのはカスタマーです。私たちはカスタマー中心主義で、カスタマーファーストです!”

 

彼らはそれを信じています。知性の欠如では無く、勤勉性や、活力や、想像力の欠如でもありません。

 

戦略の無さが、こんなギョっとするカスタマー体験を生み出してしまうのです!カスタマー体験で差別化を図ろうとするなら、ここにいらっしゃる皆さんは大なり小なりそう考えていると思いますが、その場合、答えるべきは非常にシンプルな質問です ー あなたの戦略は何ですか?

 

あなたのプロダクトを体験するカスタマーのジャーニーは、サービス品質とコストの2軸で切った4マスのどこに位置しますか?

 

サービス品質とはとてもシンプルです。カスタマーの多様なニーズのどこに・どこまで応じるか? です。

 

カスタマーは何を知りたくて電話をかけたり連絡してくるのでしょう?なぜ?いつ? どれ位まで回答を得るのに時間や労力をかけてくれますか?

 

高品質のサービスを提供しますか?その場合はペイする方法を見つけなければなりません。低品質のサービスは選択肢に限りがあり、価格も抑えなければなりません。

 

ここでフランシスさんの話に少し戻ります。NPSはなぜ事業経営の指標として役に立たないのか?

 

NPSに基づけば、私たちのプロダクトは常に推薦してもらえます。なぜか? ー 無料だからです!

 

地球のどこにいても週7日24時間サービスが提供されます。ジョシュが先ほど説明しましたが、あなたが抱えるあらゆる問題に関し、私たちは必要ならあなたの所轄の税務署に連絡します!でもこれは全くコスト効率の良いやり方でありません。つまりコスト効率で差別化する戦略ではないということです。

 

 

質問2 誰から悪者扱いされますか?

これは質問1と関係しますが、切り分けて考える必要があります。

 

卓越した存在であるために最も重要な問は、誰に適したプロダクトか、ではありません。最も重要な問は、誰に適さない(嫌われる)かです

 

良い事例はサウスウェスト航空です。彼らの戦略はローコスト・エクセレンスです。彼らは航空業界の常識と真逆の方法を見つけました。法外な値段を払わせギュウギュウ詰めの航空機に押し込みんだ客に惨めな思いをさせるという業界常識に従う必要はないのです。業界に逆らう方法で、実際に利益が出ている航空会社です。

 

彼らの選択はローコスト・エクセレンスです。低予算の旅行者のために設計しました。ローコスト・エクセレンスのアプローチの1つ目は、登場ゲートスペースのディスカウントです。搭乗ゲートからすぐにどけば安くすみます。これでコストを抑えます。2つ目は機内食の廃止です。定刻に出発するにはトレーを交換する時間が無いのです。

 

彼らは想定ターゲットに深く刺さりました。時間に正確なフライトを低コストで利用したい人たちです。競合のユナイテッド航空のきどった社員がサウスウェスト航空のフライトに搭乗し、必死になってNPS調査でどれだけ同社を酷評しても、まったく彼らは動揺しません。

 

むしろ喜んで、こう言うでしょう「それれこそ我々の戦略です。私たちが大切にするのは、あなたと違うタイプのお客さまです」

 

 

質問3 戦略が決まり、ターゲットも明確です。さてどうやって実行しますか?

 

あなたの会社の全社員、400人、1000人、3000人に、どう目指す姿を浸透させますか?

 

私たちが活用する効果的な枠組みがあります。あなたの企業にはまらないかもしれませんが、戦略があれば実行は非常に簡単です。

 

それは、「聞く(リッスン)」、「採用する(ハイヤ)」、「開発する(エンジニア)」です。

 

まず「聞く(リッスン)」

超基本です。なぜ敢えてこんなこと言うのでしょう? 相手に依らずよく設計された質問を、でも1人の人間として問いかけ、カスタマーの声に常に耳を傾けることがとても大事だからです。

 

私たちはカスタマーの声を集めた「ボイス・オブ・カスタマー」を毎月発行します。カスタマーをあらゆる側面から定性かつ定量的な指標で捉えたものです。全社員に共有します。

 

この「ボイス・オブ・カスタマー」はプロダクトの優先順位付けプロセスで活用します。戦略に基づき、かなり容赦なく適用されます。

 

カスタマーの声を基に「プロダクトをどう改善すべきか?」を徹底的に議論します。時々、カスタマーを招きます。そこに座っているマシューはつい最近素晴らしい意見をくれました。私だけでなく、共同創業者のジョシュアも、カスタマーからの要望受付先の1人です。私たちはそういう事を常に行っています。

 

この「聞く」は、私たち会社のあらゆる現場に浸透しています。

 

例えば、もしある会議で私が「皆さんの中で先週、カスタマーと直接話した人は?」と質問した時、誰も手を上げなかったらその会議は速攻中止です。電話をかけたり、何かを売ったり、サービスを提供したり、とにかく会議をしている場合ではないのです。

 

次は「採用する(ハイヤ)」

ジョシュアのおかげで、私たちの仕事はとても簡単になりました。価値観、動機、スキルセットを中心にプラットフォームを作りました。特に、毎日カスタマーに応対する人たちのスキルセットは、会社の戦略と一致している必要があります。それは知性、共感力、活力、そして多様性です。

 

私たちは世界を相手にサービスを提供しているので多様性が必須です。非常に重要なスキルです。世界が相手、米国でも全米でサービス展開しています。カスタマーや従業員と同じくらい多様性をもつ存在でありたいです。

 

加えて私たちはマニュアルが無いため、知性、活力、共感力が必要です。マニュアルをつくりたくても、7000通りの税金、健康保険、退職年金に対する質問すべてに対し答えを用意する事は出来ません。それは無理です。

 

こうして適材を採用し、良い仕事をするのに必要な情報を与えましょう。

 

先日あるカスタマーが私に電話してきてこう言いました。「ハッキリ言うよ、レクシー、君たちには失望した」。私は憤慨し、同時に不安にもなりました。とてつもなく大きな税金問題を抱えることになりそうだったからです。

 

すると同僚のケルシーが電話を替わってくれ、相手に適切な質問をしました。彼女は落ち着いていました。私はそうではありませんでした。彼女は適切な質問をしたんです。彼女は時間をかけて私が抱えた問題を解決し、私がその存在すら気づかなかった問題についても解決方法を探り始めました。

 

彼女は視点を転換して状況を一変したのです。

 

どんな問題に対しても常に完璧でいられたら素晴らしいですが、現実にそれはとても困難です。

 

私たちは州当局や保険会社に頼らざるを得ません。仮に私たちが完璧だったとしても、私たちのパートナーは最先端のテクノロジーを備えていない場合もあります。なので私たちは多様性に対応しなければなりません。

 

あの時のケルシーの対応は見事でした。私にはとても再現できません。

 

最後は、問題解決のための「開発する(エンジニア)」

カスタマーの声に耳を傾け、素晴らしい同僚が揃ったら、あとは問題解決するだけです。

 

私たちには持論があります:「同じ問題が10回起きたら11回目は無い」。その頃にはプロダクトが改良されているからです。

 

これは私たちの事業の本質ですが、最も貴重な価値は時間です。カスタマーには時間をフルに与えなければなりません。つまり最初から問題を起こしてはならないのです。

 

もし起きてしまったら、その時はここにいるニック・ソーマンの登場です。彼は素晴らしいプロダクトそしてエンジニアのリーダーです。

 

カスタマーが自ら問題に気付き解決できるようプロダクトを設計しましょう。彼らが受話器を取り上げたりチャットを始めたりせずに済むようにしましょう。

 

最後までどうしても回避不能な問題に対しては サポートチームに投資する必要があります。その口調、対応のし方、手段に至るまで、カスタマーが望む統一感のある方法で最高の対応ができるサポートチームを用意しましょう。

 

 

質問4 どうしても上手くいかない時はどうしますか?

物事は上手くいかない時もあります。満足への早道は、抱える問題に対し迅速かつ正面から対処する仕組みを作ることです。

 

これは「ブエノ(bueno)」vs「ノーブエノ(no bueno)」で説明するのが一番理解しやすいですね。

 

「ブエノ」は、カスタマーが問題を抱えた時、彼らから解決依頼が届く前に私たちで対応し解決することです。「ノーブエノ」はその逆です。

 

ここにいらっしゃる皆さんは誰もが、恐ろしく早い爆速の成長を経験中と思います。どう頑張って戦略を決め人を採用しても、会社の成長ペースの方がサービス提供に必要な能力構築スピードを上回ってしまう事態が生じます。これは実際に、現実に起きることです。

 

出来る事はいくつかあります。

 

火が吹いたら、とにかく人手をつぎ込むのです。もっともっと人手をつぎ込みます。ヤッタ、できました、万歳!ピザパーティーしましょう!ウー、切り抜けたあ!

 

で、3ヶ月後には全く同じ状況に陥ります。必ずそうなります。残念ながら、火消しの勇敢な行為はスケールしません。こういう事態が生じる時は、悲しみの7段階を素早く乗り切ることのできる経営チームの出番です。

 

「なんてこった。なぜこんな事が起きたんだ?信じられない!とても残念だ!」こんな状況をあなたと一緒に辛抱強く乗り越えてくれるパートナーに横にいてもらいましょう。

 

ある時、カスタマーが私に言いました「レクシー、君の会社が成長しているのは素晴らしい事だ。だが君たちは私の背中で大きくなっている。」こんなこと言われるのは、カスタマーとのやり取りの中で最悪の出来事です。

 

そんな最悪の状況から1秒でも早く脱するため、根本的な課題を理解し、解決する方法を考えなければなりません。つまり、それまで機能すると思っていたものを全部まとめて捨てさり、新しい仕組みを導入するのです。そして将来のため、持続的にスケールするために、そんな最悪の状況から脱しなければなりません。

 

幸い、私たちは最悪の状態から脱しました。間違いなくまた起きるでしょう。でもその時は今以上に素早く脱出できると思います。

 

 

質問5 あなたが譲れないものは何ですか?

会社が究極的に目指す地点が明確で、戦略もあり、ターゲットも絞れていて、スケールする準備も整った組織の多くが、指標や比率の点で前進を示めさなくなることがあります。「カスタマーXX人あたりの口コミ紹介は1件しかないよ」といった具合に。

 

ですが、事業に有用な指標が一体何であれ、どんなルールにも曲げてはいけないことがあります。そこには投資し続けなければなりません。

 

ジョシュアが先ほど少し触れましたが、私たちは、給与計算、健康保険、そして何より重要な仕事というものを通じ、人々がより良い生活を送るために全力を注ぐ、ある1つの人材プラットフォーム上に居るもの同士です。

 

私たちはコンプライアンスを遵守しなければなりません。

 

私たちはこれまでチームやプロダクトに多額の投資をしてきました。常に変化し続けるこの分野の規制や規則の動向に、私たちだけでなくカスタマーもついていくためです。

 

誰かが規則を破ったり、手っ取り早い近道を使ったりしたら、それは簡単にできてしまう事ではあるのですが、私たちはそれがどんな形であれ、絶対に許しません。

 

あなたの事業の中で、それが何であれ、譲れないことについての認識を合わせておきましょう。あなたが必ずいつも支援するから、手っ取り早い近道を取らなくて良いのだ、と誰もが感じられるようにしてください。

 

今日は5つの質問についてお話しました。この話の続きをご希望の方はお声がけくださると嬉しいです。進むべき道筋を決めてくれたジョシュア、あなたと一緒にこの旅路を行けるのは素晴らしい事です、どうも有難うございます!

 

(原文)

 

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