カスタマーサクセスマネジャーはチェンジマネジメントのリーダーだ、とよく言われます。
画期的なプロダクトほど、それを使う「人」が変わらねばなりません。しかし、長年しみ込んだ思考・行動パターンを変えたくないのが「人」です。
以前紹介した記事でも、名だたるプロダクトのカスタマーサクセスリーダーが力説しています。
“私たちが新しいソフトウェアやサービスを市場に投入する時、本当の山場は実は技術に関わる所ではありません。私たちが新しいサービスを市場に投入して実現したいのは「人の働き方を変える」ことです”
“どんなに優れたプロダクト・ソリューションでも、使われなければ価値はゼロ”
そして「人の働き方を変える」こそ、カスタマーサクセスマネジャーの役割なのです! はい、とても難しいことです。でも、そんな難しい大役を上手く果たす方法を、”チャレンジャー”という概念を使って解説してくれている記事をご紹介します!
“チャレンジャー”概念をカスタマーサクセスに適用する
現代のバイヤーさんは、過去に類のないほど多くの選択肢をもち、情報武装も完璧で、最上級レベルのカスタマー体験を期待しています。
一方、現代のカスタマーサクセスマネジャーは、そんな強いカスタマーへ成果をもたらす必要がある上で、原資となるプロダクトの利幅は昔ほど厚くなく、下手すると回収できないリスクもあります。
結果として、カスタマーに「ハッピー」でいてもらうため、またはカスタマーの要求を満たすためなら何でもしようとするカスタマーサクセスチームがいたとしてもあまり驚きません。しかしそのアプローチの問題は、「カスタマーは何が最善かを常に分かっている」ことが前提な点です。
現実は、カスタマーサクセスマネジャーの方が、世の中にあふれる各種のツールやサービスの中でどれが最も優れているのかよく知ってます。そして、そんなカスタマーサクセスマネジャーが、必ずしもプロダクトの専門家ではないカスタマーの要望にただ御用聞きのように従うだけだと…. 結果は大抵失敗します。
思い返してみてください。「こう使えばプロダクトの価値が最高になります」という提案を拒否してチャーンしたカスタマーはいましたか?
“カスタマーの長年染みついた思考・行動の習慣こそが成功への最大のハードルになる”
つまり、カスタマーの御用聞きを脱して真剣勝負を怖がらないことこそが、カスタマーのリテンションと結果としての売上成長にプラスの効果をもたらすのです。
“チャレンジャー” という概念
マシュー・ディクソン&ブレント・アダムソンの書籍「The Challenger Sale(訳者注:日本語版は「チャレンジャー・セールス・モデル」」により、”チャレンジャー”という概念が、これから求められる強い営業戦略として紹介され、好評を得ました。彼らの見解に基づくと、営業活動をする前提環境が大きく変化した現代は、見込み客は常に忙しく、情報通で、 長期的に使い続けられる戦略オプションが無数にあります。
ディクソンとアダムソンは、従来の営業アプローチをやめ、カスタマーが前提とする考え方に敢えて疑問を呈するのを恐れないコンサルティング営業をすることを提案しました。
具体的には以下3ステップからなるモデルです:
1)教える
業界の一般的な課題と、その課題をそのプロダクトがどう解決するのかを、見込み客に正しく教える
2)カスタマイズする
見込み客それぞれの固有ニーズに合わせてソリューションをカスタマイズする
3)主導権を握る
見込み客の思い込みに敢えて疑問を呈し、聞き出しながら議論の主導権を握る
この “チャレンジャー”モデルは、もともと営業を想定して開発されました。しかし、カスタマーサクセスにも大いに応用できそうです。
“チャレンジャー”の概念をカスタマーサクセスに適用してみる
現代のカスタマーは、導入したプロダクトが期待通り役に立つのは当然のことで、その先の彼らの事業そのものが成長するのまで支援してくれることをカスタマーサクセスマネジャーに期待しています。
そんな中、前述のように、カスタマーの思考・行動の習慣こそが成功の障害になることはよくあります。カスタマーが心から事業への成果を期待しているならば(大抵そうです)、彼らの思考・行動様式を変えるチェンジマネジメントに本腰で取り組むよう彼らに厳しく迫る必要があります。
その時、”チャレンジャー”な営業戦略は大いに役立ちそうです。では具体的にどうすればよいでしょう?
まずは、この戦略が機能するための要件を理解しましょう:
カスタマーの成功へ投資する
“チャレンジャー”戦略は決してカスタマーを攻撃することではありません。逆に、彼らと長期的に付き合う前提で、彼らが成功するための戦略を立てることです。彼らの最大の関心事を常に念頭に置き、いつでも彼らとそのことについてコミュニケーションできる必要があります
プロダクトを使ったベストプラクティスを学ぶ
あなたがプロダクトエキスパートならば、信頼を寄せてもらい、コンサルタントと見なしてもらえます
カスタマーの事業をよく理解する
カスタマーの事業そのものや業界固有の事例などに精通しましょう
新しい情報をインプットする
カスタマーに対し、彼らの事業に関する新しい情報や視点などを伝えましょう
カスタマーの考えを正しく読みとる
この戦略は賢く展開する必要があります。あなたとの議論に応じたがらない人や、この戦略が全く不要ないほど先を見通せている人も中にはいます
カスタマーと信頼関係をいったん築ければ、彼らはあなたから “チャレンジャー”されることで変わろうとします。変化が必要な領域は、プロセス、目標、先入観、戦略など、現在上手くいってないと思われるあらゆる部分です。
次にすべきは以下のことです:
彼らの”成功”基準の見直しを求める
あなたのプロダクトに対するカスタマーの期待値が時に非現実的だったり、目標ROIの数字達成に必要な議論がまったく詳細煮詰まってないことはよくあります。
ワークフロー上の課題を吟味する
このワークフローではプロダクトの価値が活きない、と思うことはありませんか?彼らのワークフローだとプロダクトの価値を毀損しかねない、と恐れず正しく伝えましょう。ダメ出しするだけでなく、必ず同時に成功事例を伝えてください。
プロダクトがあまり利用されてない状況を打破する
エンゲージメントの低いカスタマーは当然、成功する可能性も低いです。利用状況が芳しくなく成果の実現が危ぶまれる、というあなたの課題意識をストレートに伝えましょう。彼らの期待値を再確認し、現状と比較してギャップを認め合ってください。
基礎は築けています。あなたは彼らが何を変えるべきか既に把握しています。あと必要なのは、彼らに変わらねばと覚悟を決めてもらうことです。
しかしそれは同時に、やっかいな質問や、摩擦を起こしかねない事実をつきつける必要もあるため、最も難しい部分です。 カスタマーの事業と彼らの目標に心から敬意を払い、目標達成を支援したいという誠意ある姿勢を貫くことがとても重要です。
“要は、不必要な表面外交を止めて、カスタマーに対し正直に接することです”
要約します。
“チャレンジャー”営業の概念を、カスタマーサクセスに適用することで、カスタマーサクセスマネジャーであるあなたは、カスタマーにより多くの価値を提供できます。
チャレンジャー戦略に基づきあなたがすべきことは、(1)カスタマーの成功に投資し、(2)カスタマーの事業と事業固有の成功事例について詳しく知識武装し、(3)変わらねばとカスタマーが覚悟を決めるまで誠意をもって迫ることです。
要は、シャープな質問を思慮深く投げかけことで、カスタマーに対し正しく “チャレンジャー”する ことができるのです。
これは私の仕事?
はい、そうです。
もちろん簡単ではありません。しかしカスタマーに”チャレンジャー”として迫れるスキルは、カスタマーサクセスを推進する上で強力な武器になります。その武器があれば、長年染みついた思考行動様式が最大の障害になっているカスタマーを支援することができるのです。