VCが語るカスタマーサクセス:バイロン・ディーター氏 Bessemer Venture Partners

1911年に設立された老舗のベンチャーキャピタル、Bessemer Venture Partners社。同社のパートナーであるバイロンさんは、2001年にITバブルが崩壊した時、自身が創業した会社のCEOを経験する中でカスタマーサクセスに目覚めました。

 

以来10数年、投資先含む多くの経営現場でカスタマーサクセスの変遷を目にされてきた大ベテランです。

 

個人的には、カスタマーサクセスのリーダーを経験した人材は昇進が早い、という最後のキャリアパスの話にとても共感を覚えました。長めですが引き込まれる話、ぜひ最後までお楽しみください!

 

注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。


 

カスタマーサクセスの興隆:投資家の見立て

 

アリソン

今日は、Bessemer Venture Partners社のパートナー、バイロン・ディーターさんを迎え、過去10年間にカスタマーサクセスが彼の投資先をどう変革していったのか、そして投資家が何を最も重視するのかについて伺いたいと思います。

 

バイロンさん、今日はお越しくださりありがとうございます。

 

バイロン

こちらこそ、お招きくださり有難うございます。

 

アリソン

私たちGainsight社の重要な理念は「全員にとってのサクセス(Success For All)」です。何かを決める時は常にチームメイトのサクセス、カスタマーのサクセス、投資家のサクセスを基準に判断します。

 

バイロンさんの投資先ではこれをどう実践されていますか? 投資家のご意見をぜひ教えてください。

 

バイロン

私はずっとチームスポーツをやっていて、大学ではラグビーチームに所属していましたので、チームワークの秘める力が大好きです。

 

これは投資を判断する上でも重要な要素です。

 

テクノロジービジネス、特にソフトウェア分野の事業はチームで成立します。たまに例外もありますが、基本的に個人戦ではありません。

 

従って、投資を決める際はまずチームをみて、チームワークが機能しているかしっかり確認します。次に市場規模という意味でのTAM(訳者注:Total Addressable Marketの略.。さまざまな条件が満たされた時に実現可能なプロダクトの最大市場規模を意味)、そしてプロダクトそのものの価値を見ます。

 

アリソン

バイロンさんはSaaS事業への投資家としてたいへん有名です。SaaSとカスタマーサクセスが密接な関係にあることは周知の事実ですが、ここ数年のカスタマーサクセスの台頭をどうご覧になっていますか?

 

バイロン

カスタマーサクセスは間違いなく非常に大きなムーブメントです! カスタマーサクセスの波は過去3年で一気に広がりました。

 

3年前は「それって何?」、「何するの?」という質問が出る程度の認知でしたが、今や役員、CEO、取締役会も、カスタマーサクセスは成功のために必要不可欠だと誰もが認識しています。

 

カスタマーサクセスを実践するには、独立したカスタマーサクセス部門と、それを統括する上級役員が必要だということも理解しています。

 

現在、彼らの質問は「何から始めればよいのか?」、「どういうシステムやプロセスを導入すればよいのか?」という具体的な内容に変わりました。

 

定額料金制のサービスを提供する事業にとりカスタマーサクセスは必要不可欠です。これはもはや周知の事実です。

 

アリソン

バイロンさんはCEOの経験も豊富です。会社のトップとしてカスタマーサクセスをどうリードされてきたか教えてください。

 

バイロン

おっしゃる通り、私は創業者と投資家と、両方の経験があります。

 

あれは2001年だったとはっきり覚えていますが、ITバブルが崩壊した厳しい状況で、私たちの会社は残念ながら社員を解雇しなければなりませんでした。結果的にすばらしい業績を残せましたが、2回ほど解雇を断行しました。

 

重役が役員室に集まり、事業の状況を徹底的に話し合いました。自分たちはこの定額料金制サービスの何が好きなのかを突き詰めて議論した時、心に響いた声は、カスタマーサクセスの果たす役割、当時はまだそういう名前で呼ばれていませんでしたが 、カスタマーサクセスの役割が非常に大きい、つまりカスタマーとの関係性が何より重要だということでした。

 

そのことに気づいたおかげで私たちの基幹事業は存続でき、残った社員を守ることができました。

 

当時、私たちの契約更新率は非常に高かったのです。おかげで、もし他の事業がすべて失敗しても、もし誰もプロダクトを追加で購入してくれなくても、もしグロースマーケティングに投資できなくても、我々のサービスを契約更新してくれる既存カスタマーのおかげで、事業を存続し、少しずつでしたが成長もし続けました。

 

利益が残せるギリギリの損益分岐点に立った時、私たちのプロダクトを信頼して使い続けた既存カスタマーが、徐々に新しいプロダクトも購入し始めてくれました。私たちのプロダクトが彼らの成功につながると実感してもらえたからです。

 

そういう既存カスタマーが払ってくれた貴重なお金のおかげで新しい仲間を採用し、オフィスに明かりがつき、テクノロジー業界の厳しい冬を乗り越えることができました。

 

アリソン

CEOだった時、カスタマーとどれくらい接触されましたか?カスタマーとはどういう立ち位置で関わりをもたれましたか?

 

バイロン

私はカスタマーと一緒に時間を過ごすのが大好きでした。もともと外交的な性格ですし、事業上もそれが必要でした。

 

Staples社、OfficeFurniture.com社、他にもオフィス用品を扱う会社など、創設初期のカスタマーのことは今でもはっきり覚えています。

 

取引にも全面的に関わっていました。同僚3人で飛行機に乗り、同じホテルの一室に泊まって、朝9時からの会議に備えるといった感じです。

 

事業規模が拡大するにつれ、カスタマーの数も増え、チームも大きくなりました。今はすべてのカスタマーに同じように接するのは不可能ですが、カスタマーと会うのは事業へフィードバックをもらう大変貴重な時間です。

 

私たちがどこへ向かい、プロダクトがどう発展すべきか、進むべき道を照らし出してくれるヘッドライトのようなものです。

 

アリソン

投資家として役員会に参加する際、カスタマーサクセス責任者が成果を報告する機会も多いと思います。今までで一番印象深かったのはどのような場面ですか? カスタマーサクセスの影響力についても併せて聞かせてください。

 

バイロン

まず何より、カスタマーサクセス部門が役員会で報告すること自体が特筆すべきことです。これは過去3年間に起きた大きな変化です。

 

通常、カスタマーサクセスは営業に相対するまったく新しい、そして大抵は専属の組織として設立されます。

 

そして特にカスタマーサクセス独自の管理システムに基づく直接的な成果を披露する場合 、彼らは役員たちを前に説得力ある議論を精力的にリードします。

 

私たちの投資先の多くはGainsight社のプロダクトを活用しています。会社にとり正しいソリューションだと納得しているからです。

 

彼らは文字どおりスクリーンショットを見せながら、事業の実態、会社に今起きていることを報告します。次に既存カスタマー基盤からパイプライン予測へと議論を展開していきます。

 

このつながりを独自システムの成果物として提示できることは非常に重要です。なぜなら、再現性ある予測可能なシステムに基づいたカスタマーサクセスの活動は事業全体に対して大きな意味をもつという強い自信をもてるからです。

 

もちろん予測は完璧ではありません。それは営業の予測も同じことです。大切なのは、彼らが独自システムの成果物に自信を持ち、販売予測よりも数段踏み込んだ予測をできている点です。

 

彼らは役員がどんな質問をしても、具体的なアカウントやチャーンの理由を説明したり、楽観トレンドやアップセルについても同様に説明できます。

 

それが議論を活性化し、役員もよい判断ができるようになるのです。役員会の参加者はそういう時間を期待しています。

 

アリソン

CEOのカスタマーに対する向き合い方についてはいかがでしょう。

 

バイロン

一緒に仕事するCEOのタイプはさまざまですが、だいたい2タイプのどちらかです。

 

1つは、開発、プロダクトの出身で、いわゆるプロダクト志向の強いタイプ。彼らは本能的にどういったプロダクトをどう作ればよいかを熟知していて、一から十まで現場レベルで管理します。これはIPOを果たした後も続くことがよくあります。

 

もう1つは、カスタマー志向の強いタイプ。今は営業やマーケティング出身者が多いですが、将来はカスタマーサクセス出身のCEOが出ることを期待しています。カスタマー志向、または市場開拓志向の強い人たちこそが会社に大きな変革をもたらゲームチェンジャーだからです。

 

この2タイプが組織の屋台骨といえる2大柱です。カスタマーに向き合うことから生まれる原動力は、会社のトップに立つ人間には間違いなく必要不可欠です。だからこそ彼らの行き着く先がCEOなのでしょう。

 

アリソン

バイロンさんは、今まで多くの投資先やその他企業のカスタマーサクセスリーダーと話をされてきたと思います。優れたカスタマーサクセスリーダーの条件は何ですか?

 

バイロン

カスタマーサクセスはとても難しい分野です。カスタマーの悩みを理解するには、かつてMcKinsey社が「クライアントハンズ」と呼んだ、共感性的な「ソフトハンズ」が必要です。

 

一方で、説得力やビジョンを持ち、成功までの道のりを説明しながら、自分の考えるベストプラクティスを周囲に伝道していくことも必要です。

 

営業センスと経営スキルをもち、更に定量分析のスキルを兼ね備え、それらを局面に応じて使いこなすのは非常に難しいことですが、同時に楽しくもあります。

 

経営メンバーの1人としてカスタマーサクセスのリーダー職を経験すれば、人間性やマインドが大いに鍛えられます。苦境に立つカスタマーとも、成功しているカスタマーとも良い関係を維持し続けるため、状況に応じて違う帽子を被り、さまざまな役割を演じ分けることが要求されますからね。

 

アリソン

カスタマーサクセスはCEOへのキャリアパスの1つだと思いますか。

 

バイロン

カスタマーサクセスは間違いなくCEOへ続くキャリアパスの1つです。既にそうですし、カスタマーサクセスは新しい分野なので今後更にその傾向が強まると思います。

 

私が特に最近強く感じるのは、カスタマーサクセスリーダーがもの凄く早いスピードでキャリアアップする傾向です。Cornerstone OnDemand社のキルステン・マス・ハーベイさんや、Gainsight社のあなたもその中の一人です。

 

他にもPulse(訳者注:Ggainsight社主催の年次イベント。カスタマーサクセス専門イベントとして世界最大)に参加する人たち含め、皆さんの中からCEOになる人がたくさん出るべきですし、数年後には実際そうなっていると思います。私はそれが楽しみで仕方ないです。

 

アリソン

投資先のCEOの中にカスタマーサクセスの責任者を探している人がいた場合、どういう経歴を持つ人材が理想だとアドバイスしますか?

 

バイロン

私の投資先のカスタマーサクセス責任者の経歴は多岐にわたります。あなたのようにコンサルタントとしてCornerstone OnDemand社で働いていた人もいますし、初めの頃は元McKinseyの社員も多かったです。他には営業、サービス、サポート分野の経験者や、システム導入の経験を持った人もいます。

 

ただ職歴に関係なく私がいつも確認するのは、ある1つの分野でしっかりした成功を収めたかどうかです。つまり何か1つに精通し、マスターしているかどうかです。

 

カスタマーサクセス部門の責任者は、役員クラスでカスタマーサクセスを支持してくれる人やカスタマーから尊敬され、つながりを持ち、今後の方向性を理解してもらわなければなりません。精通している分野がない場合、そういう面で結果を出すのが難しいでしょう。

 

アリソン

この録音を始める直前に、カスタマーによる口コミ紹介や推薦行動について少し話しました。

 

私たちGainsight社では『カスタマーサクセスによる推薦行動(Customer Success Qualified Advocacy)』という指標を導入し始めました。この指標は、カスタマーが私たちに代わって見込み客にプロダクトをどれだけ推薦してくれたかを測るものです。

 

カスタマーの推薦行動をカスタマーサクセスリーダーの責任領域として捉える傾向をどうお考えですか。

 

バイロン

既存カスタマーの推薦行為は NPSスコアの延長だと思っています。

 

NPSスコアが本質的に問うのは、プロダクトを「どれくらい気にいっているか」、「人に薦めるか」の2点です。NPSはカスタマーとの関係の深さを示す先行指標として広く普及しています。

 

人に薦める行為にはその先があります。人に薦めるからには、彼ら自身がそのプロダクトやサービスを率先してよく使うでしょう。 究極、プロダクトを喜んで周囲に薦めてくれるカスタマー以上に素晴らしい営業マンはいません

 

クラウドの世界では、カスタマーサクセスの管理システム、人材、プロセスを駆使することで、カスタマーの推薦行動を再現性あるプロセスとして大規模に展開できます。そうなればビジネスの流れが一変するゲームチェンジャーの登場になります。

 

アリソン

既存カスタマーの推薦行為はNPSの延長だ、という考え方に大変共感します。

 

もし誰かがNPS調査に「Yes、あなたのプロダクトを人に推薦したいです」と答えたなら、「ぜひそうしてください」とお願いしたいですよね。それが私たちの目指す次のステップです。

 

投資家は投資先の事業をスケールさせたいわけですから、そのために膨大な数の営業を採用しなくてよい既存カスタマーの推薦行動を再現可能なプロセスとして実現できることは非常に重要です。

 

バイロン

カスタマーにプロダクトを薦めてもらうのは、見込み客にアプローチする方法として最も効率的です。

 

一旦その流れをつくれれば、見込み客は最初からかなり適性の高いカスタマー候補ばかりです。市場動向も事前に調べていて、プロダクトへの期待や、それがどういうものかも意識的に知ろうとしているでしょう。

 

繰り返しですが、カスタマーの推薦行動はビジネスの流れを大きく変えます。

 

何も知らない新規カスタマーと異なり、紹介されたカスタマー候補はあなたのプロダクトについて既にウォームアップされているので、成果に繋がらない売り込みをしている感覚はなくなります。

 

既存カスタマーの紹介がある場合とない場合とで、他社からの乗り換え率やリテンション率が相当異なるのは周知の事実です。

 

アリソン

グロスやネットの契約更新率などを役員会で報告するカスタマーサクセス責任者が増える傾向にあります。そういった財務指標の報告が今は期待されていますが、他にあなたが役員会で知りたい指標はありますか?

 

バイロン

実は昨日、2つの役員会に参加しました。特に2つ目の会議で、契約更新率とリテンション率の違いが大いに議論になりました。

 

カスタマー総数を分母にした場合と、ある四半期に契約更新を迎えるクライアント数を分母にした場合とでは契約更新したカスタマー数の比率(%)がかなり違いました。理由は彼らの事業の季節性でした。残念ながら昨日のケースでは悪い方に差が大きかったのです。

 

会議の終了後、役員たちは、カスタマーサクセス部門の報告は問題を実態よりよく見せようとしたのではないかという印象を持ってしまいました。株主も取締役も同様でした。

 

他の役員も同様で、正しい答えを見つけることに気を取られすぎて、問題の本質や根本原因の特定がおろそかになったと感じたはずです。

 

取締役との議論や役員会の議論は、経営課題を解決するための支援を彼らから引き出すことが目的です。

 

全員が同じ船にのる利害関係者であり、全員の目指す動機は同じです。彼らがより良い判断を下せるのに必要なデータを適切に提示することがとても重要です。

 

とにかく、グロスおよびネットのリテンション率は、それぞれが金額ベースとロゴベースとでは違いますし、年間以外の特定期間契約を結んでいる場合、契約更新率とリテンション率も異なります。

 

こういう点にきめ細かく配慮することが、役員らに事業の現況を正しく伝え適切な判断をしてもらうために非常に重要であり、結果としてカスタマーサクセスの機能強化に繋がります。

 

アリソン

最大限早いスピードで事業を成長させるため、カスタマーサクセスと営業はどのようなパートナーシップを築くべきでしょう?

 

バイロン

営業とカスタマーサクセスはオーバーラップする必要があります。実際、見込み客候補やカスタマーの引き継ぎは境界がどんどん曖昧になっています。

 

特に定額料金制のSaaS事業にとり肝心なのは、ソフトウェアによるサービスであり、現在進行形のカスタマーとの関係性ですから、 私はぶっちゃけ営業とのオーバーラップは全く問題ないと思っています。

 

二進法のような機械的話でもなく、契約書にサインをもらったら終わり、終わりよければすべてよし、でもありません。企業が存続し続けるには、会社全体がカスタマーを中心に組織される必要があります。

 

カスタマーとの関係を維持しコミュニケーションをし続けることが大事です。営業が担ってきた新規開拓やカスタマーとの関係性を構築すること、継続的に新しいプロダクトを紹介すること、カスタマー社内でもっとプロダクトを使ってもらうことなどは、カスタマーサクセスにも深く関係することです。

 

プロダクトがどう使われていて、あるいは使われているべきで、カスタマーに喜びを与え成功をもたらすのはどういう点なのか、逆にそれを邪魔するのは何なのか。営業とカスタマーサクセスはこういう問への答えを見つけ乗り越えるために協業する必要があります。

 

より深く、より長い、そして価値をもたらすカスタマーとの関係を築くことが何より重要です。

 

「この目標はどの部門が達成責任を負うのか?」、「そのために誰が何をするのか?」はとても些細な問題です。私の投資先はそれぞれの事業モデルに応じたアプローチをとっていますが、この2部門の協業はどの企業においても必須です。

 

アリソン

営業からカスタマーサクセスへカスタマーを引き継ぐベストプラクティスはどのようなものでしょう。

 

バイロン

それに関する正解はありません。自社の事業モデルや成長段階を踏まえ、どうするのが今一番適切かを把握することが大事です。

 

実際、引き継ぎタイミングを徐々に変化させる会社が多いです。それは正解が変わったからではなく、会社である限りその時にあわせた変化が必要で、正しい選択も変わるからです。

 

Cornerstone OnDemand社のキルステンさんによると、彼女の会社では営業とカスタマーサクセスの連携体制を何度か変えました。最初は、カスタマーが契約書にサインした直後に引き継ぎしたそうですが、次第にカスタマーサクセスとプロフェッショナルサービス部門の介入を早めました。

 

1年ほど両部門がオーバーラップする体制をとったそうです。その間はどちらも有料サービスでした。そして新たなプロダクトを上市したタイミングで元の体制に戻しました。事業の発展に合わせた賢明な判断です。

 

これは、何か問題が生じてそれを解決したのでなく、その時に強化すべき特質を踏まえ必要な対応をとったものです。彼らが担当を外れてから数年たっているので、今こういった体制かどうか分かりませんが、おそらく以前よりはるかに向上していると思います。

 

アリソン

サービス部門のリーダーは事業の収益性向上を目標にすべきでしょうか?

 

バイロン

それはプロダクト主体の会社でよく議論される論点です。答えはおそらく「そこまで気にしなくてよい」です。それは違う、と強く反対する人もいるでしょう。

 

お金が出ていくことは確かに好ましいことでありません。しかし根本的にプロダクト主体の事業では、プロダクトから収益を上げることが必須であり、加えてカスタマーサクセスを機能させることも必須です。

 

カスタマーサクセスには積極的にそして大胆に行動してほしいです。そこそこの収益でよければ構いませんが、カスタマーのために時間を費やし、着実にユーザーを増やすこと、段階的な統合を実現すること、そしてそれらを組み合わせることでプロダクトの力をフルに引き出すことに注力すべきです。

 

それらが上手くいったら30%のマージンを得ればよいわけです。それはカスタマーとの関係性に時間を投資するからこそ実現できることです。

 

アリソン

定額料金制サービスを展開する企業のサービス部門の役割の変化をどうお考えですか?

 

多くのサービス部門のリーダーが、どういう指標をもつべきか、どのような予測結果に焦点をあてるべきか、そして事業の成長に応じどのように自分たちを位置付けるべきかを何度も検討し直しているのを目にします。何かお気づきのことはありますか?

 

バイロン

サービス部門のアプローチ方法は事業モデルにより大きく異なります。

 

テクノロジーを活用したサービス主体の事業は完全にサービス思考なので、テクノロジーの発展を重ねることでカスタマーの満足度を高めます。

 

一方、Gainsight社ほか多くのSaaS事業は、まずプロダクトありきで、そこに焦点が当たります。

 

やりすぎの時もあるように思いますが、どうやってプロダクトからフルにサービスを引き出すかに心血を注ぎます。なるべく抵抗が薄く導入が簡単なプロダクトがほしいけど、カスタマーに価値を存分に楽しんでもらいたいという思いもあります。

 

SaaSの世界で今よく見かけるのは、ベストプラクティスを提供するサービス、専門性や知識を提供するサービスという考え方です。カスタマーにプロダクトの価値を充分体験してもらい、彼らの成功の糧にしてもらうというものです。

 

導入に何年もかかって嫌がられるSAPの煩雑な基礎工程とは真逆の傾向です。カスタマーがハッピーになるサービスを提供し、大抵それらは高く評価され、支払われる金額も大きいです。プロダクトが基礎部分をやってくれるため、より価値の高いサービスを提供できるのです。

 

アリソン

カスタマーサクセスの最も目覚ましい傾向を3点挙げると何になりますか。

 

バイロン

1つ目は、冒頭お話した通り、役員会でカスタマーサクセスが独自システムから得た洞察や傾向値の分析をプレゼンするのをよく目にするようになったことです。

 

私たちは今まで気づけなかった洞察をデータから得たいと思っていますし、カスタマーサクセス部門が把握している現在起きている事実も確認したいです。こういう期待値は既に常識になりました。

 

2つ目は、AIとマシーンラーニングの活用が進んでいることです。

 

プロダクトの利用状況、既存カスタマーのトレンド、営業記録とカスタマーサクセスに関する記録の相関関係、そしてプロダクトに関する洞察を分析する作業は、マシーンラーニングを活用し膨大なデータセットを処理するのに最適な事例です。

 

マシーンラーニングを活かして課題を浮かび上がらせ、それらをコンピュータモデルに落とし込むことができるのです。

 

3つ目は、ソフトウェア以外の幅広い産業分野でもカスタマーサクセスが推進され始めていることです。

 

カスタマーサクセスは当初、定額料金制のサービスを提供するテクノロジー会社の間で始まりました。必要に迫られたのが主な理由ですが、カスタマーサクセスへの洞察力も高まりますし、また業界として勢いがあることも幅広い産業に普及した理由のひとつでしょう。

 

今やIT産業のいたるところでカスタマーサクセスが活用され始め、広がる展開スピードも非常に速いです。

 

カスタマーサクセス関連事業を展開する企業でも、より幅広い産業がカスタマーサクセスを積極的に受け入れていることを実感する人は多いのではないでしょうか。

 

アリソン

カスタマーサクセス責任者クラスの離職率はとても高いです。仕事を頻繁に変えるイメージがあります。何が原因だと思いますか?

 

カスタマーサクセスのリーダーは、自分の今いる会社で成功するために何をすべきだと思いますか?

 

バイロン

カスタマーサクセスに限らず一般的に役員クラスの離職率は非常に高いです。データをご覧かもしれませんが、CMOの平均勤続期間は18ヵ月です。さらに短いポジションもあります。

 

役員クラスのカスタマーサクセス責任者の平均勤続期間はそれよりは長いと思います。ただ実際に、組織がかなり高い結果を要求していますし、プレッシャーも大きいです。

 

取締役会や役員会で発表するということは、ステージに立つ機会をもらうことを意味します。いわゆるタイプAのリーダーは大抵それを望んで受け入れますが、それには緊張感を持って臨む必要があります。

 

タイトなプロセス、より正確な事業の把握、適切な採用などが必要ですし、給料が上がる場合や、カスタマーサクセスをしっかり機能させるよう指示を受けた場合、自分自身により高い基準を課す必要もあります。

 

そういう事情のほか、単純に昇進したというケースも多いです。カスタマーサクセス部門の優れた中間管理職が他社のVIPに抜擢採用され、その後スピード出世するのをよく目にしています。

 

カスタマーサクセスが比較的新しい機能で、経験豊富な人や大きな成功を収めた人が少なく、優秀な人材が不足していることからスピード昇進できるです。

 

引き抜かれた会社にはいい迷惑ですが、カスタマーサクセスの発展や、またその分野の、特に若い上級職候補者のキャリアパスとしてはとても良いことだと思っています。

 

(原文)

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