ヘルススコアはとても奥深いテーマです。
各社さんが、どういう思想でヘルススコアを設計しているのか聞くと、その会社の経営思想が透けて見え、かつどれだけ熟慮・試行錯誤を経ているか垣間見れるということからもとても興味深いテーマです。
同時に、設計を少しでも誤ると、経営へ大きな痛手をもたらすリスクを内包します。そんな懸念に基づき、お馴染みGainsight社の欧州事業責任者で経験豊富なダン・ステインマン氏が書かれた記事をご紹介します!
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
カスタマーヘルススコア:誤解、神話と真実
「カスタマーヘルススコア」は、定期収益ないしサブスクリプション型事業で成功するための基礎であり、非常に議論がホットなテーマです。今回は、このテーマに関して最近耳する混乱や誤解に光を当てようと思います。
1.あなたの会社のヘルススコアには重要なリスク因子が反映されているか?
カスタマーヘルススコアの本質は非常に単純です。分かりやすい例として、あなた個人の健康で考えてみましょう。HealthCo社という架空の会社を想定します。この会社の成功は、あなた(に加え他の人も含む)の健康全般と、最終的にはあなたの寿命にかかっています。この比喩とB2B界の関係は、死=チャーン、健康=リテンション、です。
HealthCo社のCEOにとり、事業の成功があなたの健康と寿命にかかっているなら、あなたの健康を綿密にチェックし、健康リスクが発見されれば介入するのは当然です。
私は医者ではないので詳細には立ち入りませんが、今、私はHealthCoの社カスタマーサクセスマネジャーだとしましょう。私の仕事は500人のカスタマー/患者の健康全般を把握することです。彼らの健康状態をチェックし、直ちにケアが必要なカスタマーと、栄養摂取や健康的な生活全般に関するアドバイスを定期的に受けるだけでいいカスタマーを振り分けます。
この例で私が直面する問題は、「健康かどうか知るために何を測定すべきか?」、「それを測定するプロセスは?」です。
極端な例は、カスタマーに強制的に毎日来てもらい、健康診断(体温、血圧、血液検査、EKG(心電図)、EEG(脳波)など)を受けさせ、問診(喫煙や飲酒の度合、スカイダイビングをするか、消防士か、レースカーのドライバーかなど)することです。
対局の例は、カスタマーに年1回に1度の健診で毎回同じ検査・質問を受けてもらうことです。
明らかに前者の方が好ましいですが実行は不可能です。もし毎日ないし毎週健康チェックできれば、年1回の検査よりもはるかに役立つでしょう。
長時間モニターを身体につけて歩き回る人はほとんどいません(ウェアラブル機器の技術は将来これを変えるかもしれません)が、事業界に話を戻せば、カスタマーの日常生活を邪魔せず健全度をチェックするのは実行可能です。
私が耳にする混乱や誤解の1つは、こういったリスク因子と切り離してヘルススコアが設計されるケースです。
私にとってヘルススコアをリスク因子と密接にリンクさせることは非常に論理的、かつ必要不可欠なことです。
人の健康の例に戻すと、それはある人の血液検査の結果が白血病であることを示しているのに完全に健康だという証明書を出すのと全く同じことです。仮に、白血病を患っていることを私が知っていて、他の方法でその情報を伝えたとしても、死に至る病気の存在が健康全般を評価するスコアの一部に反映されていないのは明らかに間違っています。
「致命的な病気である事実を除けば、あなたの健康状態はA+です」と伝えることには大きな矛盾があると思いませんか? 致命傷な病気とその他とを分けて考えることは、恐ろしく馬鹿げたことです。
B2B事業でいえば、カスタマーがあなたのプロダクトをどう使っているかに関する情報だけでヘルススコアを設計するのと同じです。たとえばログイン数、ページビュー数、レポート実行回数などに基づき評価するスコアです。もちろん、それ自体には価値があります。
しかし考えてみてください。今この方法で、あるカスタマーのヘルススコアが92(とても健康)だとします。同時に、あなたの事業主が同じカスタマーに対して実施したアンケート調査によるとスコアが2(1?10のスケール)だとします。なお更新後90日以内に同アンケート調査スコアが5以下を記録したカスタマーの95%はチャーンしたという過去の分析記録があります。
さてここで、64,000(,000)ドルの質問です。このカスタマーは健全ですか?
あなたの「ヘルススコア」によれば、彼らは健全です。一方、患者が白血病であると示す血液検査のように、アンケート調査スコアでは危険信号です。
この例における統計を考慮すると後者が明らかに正しいでしょう。そうだとして、過去のアンケート調査スコアが非常に有意義であったなら、ヘルススコアは同調査スコアを反映すべきでしょうか? ? もちろんYesです。
95%の確率でチャーンするという警告があるカスタマーのヘルススコアは92だ、というレポートを誰がCEOへ報告したいでしょう? 少なくとも私はいやです。私なら調査スコアを反映したより低いヘルススコアをレポートしたいです。そのカスタマーが危険に直面していることが一目で分かるようなレポートです。
この点は、カスタマーのヘルススコアを設計・運用する主目的とリンクします。ヘルススコアは将来のカスタマーの行動を見極める尺度です。「ヘルススコアが92」なら更新の可能性は100%に近いでしょうし、更新に伴うアップセルの見込みも90%でしょう。逆に、ヘルススコアが15ならチャーンの可能性が93%で、アップセルの可能性は0%の可能性を示唆します。
ヘルススコアの目的は、売上機会を拡充するために営業パイプラインを管理する目的と同じです。パイプラインは、営業担当VPが、ある案件がパイプライン上どの段階にあるのか理解し、各段階の過去の成約率統計に基づいて、同案件が成約する可能性(とタイミング)を予測するのに役立ちます。
もしあなたのヘルススコアが、あるカスタマーの健全度に関係する全要因を反映していないなら、それは本当の意味でヘルススコアの役割を果たしません。
それは白血病の男性を「完全な健康体だ」と判定することと何ら変わりありません。その患者が医者に、白血病なのに全く健康だと伝えられた理由を聞き、医者が「健康状態を判定する上で血液検査の結果を考慮しないからです」と答えることを想像できますか?この医者を再訪したい人、友人や家族に勧めたい人がいたら手をあげてください。
2.あなたの会社のヘルススコアは対策アクションに繋がるものか?
カスタマーのヘルススコアを設計・運用する第2の理由は、必要かつ適切な行動へと確実に繋げることです。
簡単に言えば、スコアが低ければ課題解決のため介入を開始し、スコアが高ければ 紹介に繋げる、活用事例をつくる、アップセル機会を特定する、など営業やマーケティング活動を推進します。ヘルススコアが予測可能性の高いレベルで運用されていれば、こういったアクションは非常に妥当かつ効果的です。
ヘルススコアを設計・運用するもう1つの理由は、カスタマーサクセスチームの効率的なマネジメントに役立たせることです。
ヘルススコアが 予測可能性の高いレベルで運用されていれば、カスタマーリスト全体を見渡したヘルススコアの動きに基づき、カスタマーサクセスマネジャー(及びアカウントマネジャー)の活動を文字通りマネジメントできます。上昇すれば良し、下降したらダメです。彼らの活動が効果的かを判断するのに契約更新率の結果を待つ必要はありません。
これは、営業担当VPが営業マンのパイプラインに基づき契約活動を観察することと何ら変わりありません。営業マンがパイプライン上で案件を前に進められているか把握するのに、営業マンの成約件数結果を待つ必要はありません。もちろん予測は確実な数字ではありませんが、代替指標として有効です。
最後にもう1つ。ヘルススコアの設計上、カスタマーの健全度を測る様々な要素(利用状況、サポート、調査スコア、請求書履歴、人間関係など)をまず点数化し、その上でそれらに重み付けをすることで総合スコアを設計する方法をとったなら、カスタマーサクセスマネジャーに魔法をかけるのと全く同じ効果を得られます。
つまり、ヘルススコアの動きを常に複数の構成要素に分解して把握できるため、到底出来そうにない感(海を沸騰させるなど)に苦しむ代わりに、必要な目的地へたどり着くための管理可能な方法を手に入れることが出来るのです。
たとえば、あるカスタマーの総合スコア63を65に上げるとしましょう。各構成要素のスコアが把握できるので、それらすべてを確認し、最も低いものに注目します。たとえばサポート(過去30日内に組成されたサポート案件数)スコアが25だったとしましょう。サポート事例を分析し、ある特定の機能のハウツーに関わる質問を彼らが何度もしていることを突き止めたら、その機能に関するトレーニングビデオが活用されているか確かめ、1時間ほど集中して彼らの質問に答えます。
恐らく30日後には、彼らのサポート問合せ電話は12から4に減り、サポートスコアは25から63に上がり、総合スコアは63から67まで上がるでしょう。このように、非常に良く設計されたスコアカードとその構成スコアが手に入れば、カスタマーの健全度全般を改善する方法を色々と試すことが出来るのです。
自由に使えるツールや知識を手に入れた今、カスタマーをよりプロアクティブにマネジメントすることが可能です。それは朝飯前な仕事です。より成果をだすカスタマーサクセスマネジャーになれます。より高いヘルススコアを達成できます。更新やアップセル率も改善させられます。
以上が、カスタマーの健全度が改善し、カスタマーサクセスマネジャーがより能力を発揮し、より透明度の高いマネジメントが実現する流れです。
3. 結論
プロアクティブに既存カスタマーをマネジメントしようとするチームにとって今やカスタマーの健全度を測ることは最低限必須なことです。
それをどう実行するかに関して、ちまたの神話や噂話に影響されないよう、ぜひ注意してください。もちろん細部は会社毎に異なります。しかし、その本質はブレてはいけない常識です。
カスタマーの健全度に影響を及ぼす要素は沢山あります。定量的な要素(ログイン数など)もあれば、定性的な要素(上司の関係など)もあります。あなたの会社にとって何がベストなのかは、あなたが一番よく知っているはずです。
まずは最も価値あると思われる要素から試行し始め、最終的には全カスタマーにとり意味ある総合ヘルススコアへ統合すべく設計してみてください。色々と観察、実験、分析を重ね、あなたなりのモデルを磨き上げてください。
客観的かつ測定可能なやり方でカスタマーサクセスに着手したならば、後のち、そうした自分にきっと感謝することでしょう。