最近、カスタマーサクセスの人たちが「マーケティングを強化する」と言うのをよく耳にします。具体的な活動は様々ですが、アダプション強化に加え、最終的にアドボカシー(既存客が新規客を連れてくる)強化を目的とすることが一般的です。
一方、マーケティングのプロからも「サブスクリプション経済でのマーケティングって何がポイント?」と聞かれるようになりました。
営業やサポートとの連携が議論されることの多いカスタマーサクセスですが、いよいよマーケティングとの連携も本格化したようです。
今回は、「ヘルススコアが役に立たない可能性:カスタマー成熟度指標(マチュリティ インデックス)」でお馴染み Boazさんが CCOとCMOの関係について数字も使い解説された記事をご紹介します。
注:Strikedeck社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
はじめに
カスタマーサクセスの進化はある閾値を超えました。
SaaS世界の困りごとに目を付け、斬新な発想でイノベーションを生み出してきた企業の創業者や役員から始まったこの動きは、過去数年で急速に高度化し洗練され、今では必要不可欠な機能へ進化しました。指標やプロセス、役割と責任、専門ツールまでもが定義され設計され運用され進化し続けています。
成熟の域に近づくにつれ、CCO(チーフ カスタマー オフィサー)の仕事は、カスタマーサクセス単独の機能構築から、社内の他組織との融合へとシフトします。そして今、カスタマーサクセスとマーケティングが融合の時を迎えています。今回は、両者が融合すべき理由とその方法について説明します。
デートは役員室から始まる
カスタマーサクセスの進化は爆速です。それはサブスクリプション経済の大波に直接紐づいています。サブスクリプション経済では、カスタマーは最初の支払いが少額で済むだけでなく、ベンダーとの関係構築に割くリソースも少なくて済みます。
逆に、生き残るために LTV(ライフ タイム バリュー;カスタマーから生涯通じて得る価値)とCAC(カスタマー アクイジション コスト;新規カスタマー獲得に要するコスト)のバランスをプラスに保つことが必須なベンダーは、かつてより多くのリソースと専門知識を投入する責任を負うことになりました。
ベンダーにもメリットがあります。それは、以前は分からなかったカスタマーの行動やプロダクト・サービスの利用状況を把握できるようになったことです。
この二つの事実(より多くの投資が必要、より多くのデータ収集が可能)が、カスタマーサクセスという新しい機能の爆速成長を後押ししました。
CCOは既に成人し、デートする準備が整っていそうです。新任役員として役員室の仲間入りを果たしたCCOは、役員室内の力関係を変えます。変わらざるを得ない変化もあれば、ゼロから生まれる変化もあります。
カスタマーサクセスの短期間な進化の歴史
誰もが、カスタマーサクセスに対する初期反応や、カスタマーサクセスの発展に伴う社内の変化を経験ずみです。
カスタマーサクセスの導入初期は実験と検証が重ねられました。カスタマーサクセスの概念は実証され、投資に値するビジネスケースを構築する必要がありました。
実証が済んだ企業は、カスタマーサクセスのチームを強化し始めます。すなわち、目標を掲げ、プロセスを開発し、最適な人材を雇用し、機能に必要な技術を実装するなどです。
要約するとこんな流れです:
チーム編成 → 効果測定(ROI)/実証 → チーム拡大・強化 → 人の教育・採用 → より高いパフォーマンス
今ではどの企業もカスタマーサクセスの経験値を上げています。
産業調査対象企業の90%以上がカスタマーサクセスの専門チームをもち、うち50%以上はCEOに直接レポートしていることが明らかになっています。そんな企業のCCOでも、カスタマーサクセスを更に強化するため、実証済みの方法論から学ぶことは多いです。
下の表は企業が新しい機能を取り入れていくプロセスを纏めたものです。
CCOは、自社のカスタマーサクセス機能のどこが十分でどこが不十分かを評価し対策をとる必要があります。大半の企業は今現在、カスタマーサクセスのツール、プロセス、目標などを改善し、同機能を強化する段階にいます。
一方、既に強力なカスタマーサクセスチームが活躍中の場合、CCOはさらに次の段階を目指す必要があります。つまり他の機能部門との融合を進める段階です。それは比較的新しいカスタマーサクセスという機能を組織内に完全に同化させシナジーを創出するのに必要な通過点であり、それをやり通すには組織横断的な指標やプロセスの合理化が必須です。
CCOが営業担当役員と生涯の友(ベスト フレンド フォーエバー)になる経緯
初期のカスタマーサクセスチームの役割は、営業がクローズした契約の内容とプロダクトが提供出来る価値との間の「ギャップを埋める」ことでした。そのため、カスタマーサクセスのリーダーは、営業やエンジニアリングのリーダー、もしくはプロダクトリーダーが担当することがよくありました。
営業リーダーとのやりとりは主にカスタマーの引継ぎプロセスです。つまり、新規カスタマーへ何が販売され、プロダクトで何が出来ると伝えたかを共有することです。
エンジニアリングないしプロダクトのリーダーとのやりとりは、プロダクトの評価プロセスです。つまり、サポート機能やプロダクト機能を強化することでギャップ解消を目指すことです。
実際ここ数年、営業、プロダクト、カスタマーサクセスの3者関係については常に熱い議論が続きました。
カスタマーサクセスの経験値が増すにつれ、収益(契約更新、解約、アップセル、クロスセル、粗利など)の計画、予測、達成にむけ、CFOとのやりとりが多くなりました。直近のカスタマーサクセス関連のイベントやフォーラムでは、重要な財務指標を改善する上でカスタマーサクセスが果たす役割の議論が盛んです。
トーマシュ・トゥンガ氏が記事で紹介しているServiceNow社などのSaaS上場企業は、既存カスタマーのネットチャーン、グロスチャーン、MRRなどの重要指標をオープンにし始めています。このような動きは明らかに、カスタマーサクセスがより成熟しつつあることを示唆します。
一方、マーケティングは、過去10年、企業実務の中で最も進化した機能の1つです。当初、ブランディングとポジショニングに重点を置いた、主に定性的な機能だったマーケティングは、売上貢献という視点で成果を測定するほどまで高度に定量的な科学的機能へと進化しました。
現在、あらゆるマーケティング活動はROIを評価します。マーケティング・クオリファイド・リード(MQL)のことを知らないマーケティング担当者は、デートしたいけど自分のスマフォにTinder(注:デートアプリ)をダウンロードしていないティーンエイジャーと同じです。ちなみに、営業も全く同じプロセスを経ています。
結果を重視するというこの大変素晴らしい傾向と共に、CMOは営業のリーダーと非常に近しく連携するようになりました。収益増加が目的になると、営業責任者とマーケティング責任者がマーケティング関連の目標に同意し、同機能の強化に必要な施策を調整しながら仕事を進めることが重要です。
要すれば、マーケティングチームのアウトプットは営業チームのインプットです。ファナル入口のMQLやSQL件数・金額などの目標は、今や営業チームにもマーケティングチームにもごく一般的な共有目標です。
賢い企業では、営業とマーケティングが握り合った共有目標に基づき、マーケティングチームの予算とチーム規模を決めます。それは、営業が四半期の売上目標に基づき営業の予算とチーム規模を決めるのと全く同様に自然な流れで行われます。
CCOがCMOの生涯の友になるべき理由
上述のトレンド、即ち「既存カスタマーの収益拡大により重点を置くSaaS企業のトレンド」と、「マーケティングとカスタマーサクセスが共に結果重視型へ機能強化するトレンド」から、”カスタマーサクセスマーケティング“と呼ぶべき新たな動きが1歩踏み出されました。
カスタマーサクセスチームが大きな成果をだすには、既存カスタマーが自社のプロダクトやサービスを使いまくって成果を出せるよう、カスタマーとのコミュニケーションを強化する必要があります。カスタマーとの関係が強まれば、既存カスタマーからの収益機会が拡大します。カスタマーサクセス責任者が最も気にすべきは「ネガティブチャーン」に持っていけるかどうか、なのです。
結果、多くのカスタマーサクセスチームが、カスタマーへ提供するコンテンツの作成力強化に躍起になりました。 “カスタマーマーケティング” は多くのフォーラムやカンファレンスでホットな話題です。「1対多プログラム」や「カスタマキャンペーン」は、カスタマーサクセスのあらゆるプラットフォームソリューションで必要不可欠な機能になっています。
しかし、こうしたツールの導入やコンテンツ力の強化という努力にも関わらず、大半のカスタマーサクセスチームはキャンペーンで成果を出すのに苦労しています。なぜなら、効果的・効率的なキャンペーンを企画・運営するフルセット能力は、それ自体プロフェッショナルが存在する領域であり… そう、それこそが マーケティングと呼ばれる領域だからです!
カスタマーマーケティングはマーケティング機能であり、カスタマーサクセスの機能ではない
冷静に考えてみましょう。分業効果を前提とすると、カスタマーサクセスチームは独自にマーケティングチームをもつべきでなく、マーケティングチームと協力してカスタマーマーケティング施策を計画、実行し、効果測定する方が得策なのです。
私たちはカスタマーサクセス責任者として “カスタマーサクセスマーケティング” 機能を追求するという実験をしてみました。
結果は… 多くの努力とツールと最適とは言えないカスタマコミュニケーションの重複の山を経験しました! 皆さんぜひ、契約の前後にマーケティングとカスタマーサクセスから送付される自動電子メールの合理化にトライしてみてください。我々が経験したことの意味がお分かりかと思います。
しかし、マーケティング担当者に「カスタマーサクセスに注力してください」と言うだけでは全く不十分です。なぜそうすべきか、何をすべきかを具体的に説明する必要があります。なぜならマーケティングは目標志向であり、効果測定や収益重視な人たちだからです。ぜひ同じ思考で接してください。
昨年、Redpoint Ventures社 のトーマシュ・トゥンガ氏 は「CSMチームは営業チームよりも多くの収益を獲得でできる」と主張しました。SaaStr社のジェイソン・レムキン氏は「 売上の90%はカスタマーサクセスから生まれる」と主張しました。
この点に関し1歩踏み込み、「チャーン最小化」と「エクスパンション最大化」というカスタマーサクセスの目標達成に必要なマーケティングの時間と予算はどれ位か計算するため、基本モデルを作ってみました。
まずは基本から:CMOがカスタマーサクセスを検討すべき理由
チャーン0%で成長しているSaaS企業を観察すると、企業規模が大きくなるにつれ、新規カスタマーからの収益(新規営業による売上)と既存カスタマーからの収益(カスタマーサクセスによる売上)の比率が変化することが分かります。
簡便な例として、新規カスタマーの売上が1年目100kドル、2年目300kドル、3年目800kドル… とします(以下、下の表を参照)。下段は分かりやすくした表です。
ご覧いただくと、5年目以降、カスタマーサクセスは営業より多くの売上を上げていることがわかります。
CMOが確保すべき”カスタマーサクセスマーケティング”予算
カスタマーサクセスが売上の大半に関与することが分かったので、次はどれ位のマーケティング予算をカスタマーサクセスに配分すべきか計算してみましょう。
ここで、プロダクトやサービスは一定の独自価値を有し、カスタマーサクセスが一切無くても一定割合のカスタマーは契約更新するとします。営業チームが小規模でも一定の新規カスタマーを獲得できるのと同じです。各チームの専門的な活動は、新規プロダクトからの売上、既存カスタマーからの売上を拡大させ、企業の成長を支えます。
また、カスタマーサクセスがほぼゼロの場合のチャーンは年20%、カスタマーサクセスがフル機能するとチャーンは年10%に改善するとします。更に、優秀なカスタマーサクセスチームはクロスセルやアップセルにより既存カスタマーからの売上を年15%アップし、合計でチャーンは年ー5%(ネガティブチャーン)になると想定します 。
以上を踏まえ、事業の”慣性”に基づくカスタマーサクセスの逓増価値を計算すると、カスタマーサクセスチームがもららす売上インパクトを、営業チームが獲得する新規カスタマーの売上と比較することが出来ます。なおインバウンドセールスは100%マーケティングによるものします。
以下は、カスタマーサクセスによる収益逓増インパクトと、営業による新規売上との比較表です。
前提:
・カスタマーサクセスなし時のチャーン 年20%
・カスタマーサクセスあり時のチャーン 年10%
・クロスセル等による売上増 年15%
・ネットのネガティブチャーン 年ー5%
表から分かるのは、カスタマーサクセスチームが生み出す売上は、5年目には全体の4分の1超になり、6年目には約40%にまで拡大することです。
以上はもちろん超単純化した計算ですが、重要なのは、企業がこのような思考に基づいてマーケティング予算の配分を考え始めるべきだという点です。
カスタマーサクセスマーケティングに配分するマーケティング予算の比率は、企業固有の事業特性に応じて調整・決定すべきです。例えば、口コミからの案件が多い事業はリテンション率が高いなどです。
では、カスタマーサクセスマーケティング予算でCMOは一体何をすべきでしょう?
それは、既存カスタマーとの関わりを強化するプログラムを開発することです。
まず最初は、カスタマーが何に関心を寄せ、カスタマーライフサイクルのどの段階で何を必要とするのか、を正しく理解します。その後、会社に対するカスタマーの態度や感情の変化と組み合わせていきます。どこかで聞いたことありますよね? そうです、マーケティングにお馴染みの仕事です!
マーケティングチームは既存カスタマーをターゲット市場マップにおける1セグメントとして扱います。すべてのセグメントは他のセグメントと異なる独自の特徴をもちます。例えば、プロダクトに対する知識量の違いや、企業としての取引関係の深さの違いなどです。これら各々の特徴に基づき、カスタマーサクセスマーケティングのプログラムを変えていく必要があります。
もうお気づきですね?
そうです、マーケティングチームこそ、この分野を理解し推進する能力をもっています。マーケティングの専門家は、カスタマーセグメント毎に最適な対処法を熟知しています。なぜなら、それこそ彼らが毎日実行していることだからです。
CCOから声がけすべき理由
カスタマーマーケティングの必要性は明らかです。Kyone社が企業のCEOやマーケティング担当役員に対し実施した2017年マーケティング実態調査によると、カスタマーマーケティングの重要性が 2017年により高まると答えた企業は全体の93%、カスタマーマーケティングに対し人材や予算を増やす予定と答えた企業は62%でした。
一方、90%超がカスタマーマーケティングは重要だと答えたにもかかわらず、効果測定している企業は73%、現在のカスタマーマーケティングの満足している企業も61%でした(小規模な企業ほど満足度が低く、同活動の効果も限定的と回答)。明らかに改善余地は大きいです!
重要なのは、CCOこそがその改善に向けた変化を主導すべきという点です。
営業担当役員と同様、CCOにもCMOの協力が必要不可欠です。カスタマーサクセスとマーケティングの協業関係や組織横断プロセスを確立し、そこにCMOを巻き込んでいくのはCCOの責任なのです。
以上見てきたように、CCOの役割はカスタマーサクセスが企業の中で経験値を増すにつれ常に変化します。カスタマーサクセスチームを組成し、人やプロセス、ツールを整備した後は、他の機能部門と融合する番です。
営業責任者が営業チーム内にマーケティング機能をもたないのと同様、CCOはカスタマーサクセスチーム内にマーケティング機能を重複してもってはいけません。そうする代わりに、CMOと協力して共通の目標を設定し、効果測定する方法を決め、必要なリソースを配分すべきです。
先の分析に基づき、カスタマーサクセスマーケティングを強化する目的でマーケティング予算が増額されるかもしれません。逆に、CCOは営業責任者と既定のマーケティング予算を奪い合う必要があるかもしれません。
どちらの場合も、マーケティング費用をより効果的に確保するために、CCOはマーケティングの人たちの思考に基づきROIを明確にする必要があります。
CMOが「右にスワイプ」すべき理由
ここまで、CCOはCMOと共に既存カスタマーからの売上拡大を推進すべし、という話をしてきました。
一方、実はCMOが「右にスワイプ」する理由があります(デートの前線から退いた人のため補足すると「右にスワイプ」とは、デートアプリで気に入った異性を受け入れることを意味します)。その理由とは、口コミ紹介マーケティングが新規カスタマー獲得に莫大な効果があるという事実です。
既存カスタマーの口コミ紹介が、リード案件創出に有効でかつコスト効率も良いため非常に強力な手段であることは、多くの調査から明らかです。満足度の高い既存カスタマーによる推奨、紹介、事例紹介、ユーザー作成コンテンツ、レビュー、ブログ投稿などは、同プロダクトに関するベンダー企業の主張とカスタマーが得る価値への信頼性を上げる効果が絶大です。
Influitive社のマーク・オルガン氏曰く:
「普通の企業はCACに莫大な費用をかけますが、賢い企業は口コミコミュニティを組成することで低いCACと高いLTVを同時に実現します。既存カスタマーに新規カスタマーを連れて来てもらうのです」
CMOはCCOと近しく連携することで、既存カスタマーからより多くの売上を確保できるだけでなく、同時により多くの新規見込み客も確保し、MQL目標を達成することができるのです。
結論
適切に設計され予算化された”カスタマーサクセスマーケティング“は、カスタマーを中心に据えて活動する企業の次なる進化ステップです。
1人の機能責任者の元に既存カスタマーの管理を集中させたのが第一段階、次に一連の指標、役割と責任、カスタマーサクセスの新技術/ツールや成功事例/プロセスを構築したのが第二段階でした。
その次の最先端といえる第三段階のテーマは、組織内の他の機能部門との関係を再構築し、カスタマーサクセスを彼らの業務プロセスに組み込んでいくことです。
マーケティングとカスタマーサクセスが近しく連携することによる効果は絶大でかつそれは実現可能です。
CCOはCMOに好意を表明し、CMOは右にスワイプする必要があります。そしてそれこそCCOにとっての今後の重要課題であり好機なのです!