国産カスタマーサクセス事例(2)Sansan

 by 弘子ラザヴィ   純粋国産のカスタマーサクセス   カスタマーサクセスという概念は米国生まれですが、日本でも本質は全く同じ実務が複数生まれています。しかし、カスタマーサクセスという言葉が使われないケースも多く、米国ほど広く認知されていません。   そんな純粋国産カスタマーサクセスの存在を世に知らしめたいという想いから、私は日本のカスタマーサクセスリーダーへのインタビュー動画を2017年から撮り続けています。今回はその中から1社ご紹介します。   Sansan   Sansanは「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」と、個人向け名刺アプリ「Eight」を展開する日本企業です。2007年の創業当初より当時日本ではまだ珍しいサブスクリプション型の事業をスタートし、2012年に国内企業ではじめてカスタマーサクセス部門を創設しました。   現在のカスタマーサクセス部門は、同社のプロフィット部門として40名以上のメンバーが活躍し、約6,000件のSansan導入企業の成功を支えています。   日本企業の中でもトップクラスの規模と実績を誇るSansanのカスタマーサクセスは、今では多くの企業から注目を集める存在です。皆さんの中にも、同社のカスタマーサクセスに関する記事をご覧になったりプレゼンを聴講された方も多いと思います。   今回は、そんなSansanカスタマーサクセスのデータ活用面に光をあてた最新事情をご紹介します。   1. 2018年にGainsightを他社に先駆けて導入 同社は2018年に、カスタマーサクセス プラットフォームの世界トップブランドであるGainsightを日本企業として初めて導入しました。   カスタマーサクセス部門をゼロから立ち上げた、同社の共同創業者で取締役の富岡圭氏は言います。 「カスタマーサクセスを立ち上げた当時から今でも変わらないのはカスタマーサクセスの姿勢です。プロダクトをお客さんに使ってもらうことで顧客価値を生み出していこうという姿勢は一貫して変わりません。当時から大きく変わったのは、データドリブンな仕組みを取り入れたことです」   Sansanというサービスはメリットを実感してもらうのが難しく、そもそも使ってもらわなければ価値も出せません。つまり顧客価値を生み出すために「まず使ってもらうことが大事」という想いから、カスタマーサクセス部門が創設されました。従って当初はオンボーディング支援が重視されました。   業績向上と共にカスタマー数が急増した結果、オンボーディング終了後の利用状況まできめ細かく把握することが難しくなったり、メンバーの数も急増して属人化した実務が散見され始めました。加えて事業の成長フェーズが「使ってもらう」即ちオンボーディング率アップから、「価値を出してもらう」即ちアダプション率アップによるネット収益リテンション(NRR)アップへと軸足を移す時期にきていました。   そうした中で、データからカスタマー1人ひとりを知り尽くし、予測的な対応をとるカスタマーサクセスへと進化させることを目的に、Gainsightという世界標準のカスタマーサクセスプラットフォームの導入を決めたのです。   Gainsightは、単なる「テクノロジーを使った便利なツール」ではありません。ツールの裏には、成功した数多くのグローバル企業の実務ノウハウや、利用する企業各社が最適解を考えるのに役立つフレームワークといった無形資産が実は大きな価値として存在します。   Sansanもそうしたフレームワークやノウハウをふんだんに活用し、独自のヘルススコアに加え、データ収集・統合から打ち手の実行まで首尾一貫して定義した一連のプログラムを非常に短期間に設計し、運用を始めることができました。   データドリブンな仕組みを入れた現在のカスタマーサクセスについて富岡氏はお話しします。 「カスタマーサクセス部門にはお客様からの要望がかなり届くんです。100社に会えば100通りの要望が届きます。その要望を全て受けることがいいことかというと必ずしもそうではない。本当の顧客価値とは、実はお客さんですら気づいていないことが多いのです。従って、僕らがデータを細かく見ていくことで、本当にお客さんにとって価値のあることは何だろうって考えることがとても大事です。それを問い続けることがカスタマーサクセスの本質だと僕は思っています」   2. Gainsightの導入と同時に組織を見直した Sansanのカスタマーサクセス部門のミッションは「お客様の成功にむけてSansanの価値を届けLTV(ライフタイムバリュー)を最大化すること」です。   Gainsightのフレームワークを参考にヘルススコアを検討した際、同社のカスタマーサクセス組織が歪みを抱えていることに気付きました。そこで組織ミッションに立ち戻り、組織の在り方を大幅に見直しました。 下記の図は、現在のカスタマーサクセス部門が大事にする5つの柱です。   利用促進を担うCSMに加え、トレーニング&コミュニティ、プロダクト・フィードバック、テクノロジー&マーケティング、そして契約に責任をもつリニューアルセールスが5つの柱を担います。この5つの柱に基づき、CSM、リニューアルセールス、カスタマーマーケティングが役割をもって業務を遂行します。その構図は以下の通りです。   この構図のポイントは2つあります。   1つは、CSMとリニューアルセールスがNRRのアップを目指して対(つい)になりながら連携をする構図になった点。もう1つは、CSMとリニューアルセールスの活動を下支えするマーケティング基盤が構築された点です。   以前は拠り所とするデータがバラバラで目線が合っていなかった3者が、Gainsightを導入したことで同じデータを見て議論するようになりました。   具体的には、 ・CSMはGainsight上のヘルススコアからカスタマーの状況を日々きめ細かく観察する ・リニューアルセールスは、CSMと共にGainsight上の機会リストを見て提案を検討したり利用率リストを見て課題を議論したりする ・カスタマーマーケティングは、CSMやリニューアルセールスが見ているのと同じデータに基づいて施策実行のアラームを何で定義すべきかをトライアル&エラーしながら施策のPDCを回す   このように、カスタマーの動きを3者が同じデータに基づいてきめ細かく確認しながら連携する体制へと進化したのです。   3. 顧客価値を上げることができ、売上も上がった   富岡氏によると、データ活用へ投資したことの成果は直ぐに現れました。 「お客様が増えた結果、以前はきめ細かくフォローしきれない面がありました。Gainsightを導入した今はお客様の変化に素早く気付けるようになりました。お客様に良いタイミングで最適な提案をすることで顧客価値を上げられるようになり、売上アップという成果がすぐに現れました」   カスタマー社内でIDが追加されたり管理者が変更されたりなどの、小さな、しかし重要な変化を以前はタイムリーにすべて把握することが困難でした。しかしGainsightを導入したことで、そうした変化は自動的に検出されて要対策リストが作られるようになりました。結果、CSMやリニューアルセールスが絶好のタイミングで連絡できるようになり、それが提案機会や売上の増加という結果に繋がったのです。   数字に表れない成果も大きく現れました。   カスタマーサクセス部の部長で執行役員の小川泰正氏は言います。 「Gainsightを導入したことでSansanのカスタマーサクセスは大きく進化しました。目に見える成果が現れ、社内での位置づけが高まったことは大きいです。僕にとって最大の変化は、メンバーが共通のデータに基づいて自分で判断し自立して動けるようになったため、僕自身が現場を離れられるようになったことです。データのどこを見るべきかポイントが分かっているし、経営層へのレポートも容易になりました」     以上、Sansanで誕生し今も進化中のカスタマーサクセスの事例を紹介しました。   Sansanはデータの統合・分析に投資して組織全体でデータをフル活用することで、数か月もしないうちに成果を手に入れ、同時に組織の下地も整えました。今後ますます発展していく様子が楽しみです。なお、Sansanの共同創業者で取締役の富岡圭氏によるインタビュー動画も併せてご覧ください!   (以上)