SaaS事業のエンタープライズ攻略の秘訣(前編)

 by 弘子ラザヴィ

 

こんにちは!SuccessJapanを運営する弘子ラザヴィです。昨年主催したカスタマーサクセスカンファレンス Success4で、UZABASEの佐久間 衡さんが「エンタープライズに向けたカスタマーサクセスの実現」をテーマにお話しくださいました。

 

ご存知の方も多いと思いますが、佐久間さんといえば、SaaSビジネスの世界で豊富な経験と実績をお持ちなことに加え、SaaSへの愛に溢れた方で有名です!

 

そんな佐久間さんの英知を引き出すのに対談1回40分で足りるわけがなく、Success4のフォローアップとしてインタビューさせて頂きました! その内容を 2回に分けてお届けします。

 

・前編:エンタープライズ攻略の難しさと意義    ←今回はこれ

後編:エンタープライズ攻略のステップ1~5

インタビュー動画もぜひ併せてご覧ください!

 


はじめに:ご経歴

弘子:

佐久間さんのご経歴を簡単に教えてください。

 

衡:

私はですね、新卒で証券会社に入って、そこに 6年間ぐらい、日本とちょっとロンドンで、いわゆる投資銀行業務、M&Aとか資金調達の提案とその案件執行に関わる業務をやってました。

 

その後、UZABASEに入って、SPEEDA(スピーダ)というUZABASEの最初のプロダクトの日本事業担当を 4年ぐらいやって、それからFORCAS(フォーカス)、INITIAL(イニシャル)という、企業の分析の力を更に広めていくプロダクトを作ってやってきて、今に至ります。

 

SaaSビジネスにとってのエンタープライズ攻略とは

弘子:

Success4で「エンタープライズに向けたカスタマ―サクセスの実現」をテーマに対談された時の背景にあった想いは何だったのでしょう?

 

衡:

日本だと、結構スタートアップと大企業って断絶しているんです。なので、スタートアップで成功したモデルをそのまま大企業、つまりエンタープライズへ広めていくことってなかなか難しくてですね。で、そこの壁をみんな乗り越えていきたいなっていう想いでしたね。

 

本当に、スタートアップとエンタープライズ(大企業)というものが、全然違うんです。

 

例えば、スタートアップであれば、「利用者」イコール「導入の意思決定者」なので、導入までのスピードが凄い速い。1か月とかで導入するサービスも多い。そこからオンボーディングして、実際にカスタマーサクセスでリアルな結果を届けていくところも、そもそも利用者が最初がやり取りしているので早い。1か月や 2か月で軌道にのることも多い。

 

大企業の場合はそうじゃないじゃないですか。導入の意思決定者と利用者が違うことも多いですし、ようやく利用してくれたと思ったら部署異動でどんどん利用者が変わったり、増えたり。導入も、スタートアップだったら 1か月で導入できたものが、3か月、半年、1年とかかかる。そこから、実際にカスタマーに価値を届けていくのも、利用者が凄く多かったり、そもそも営業段階で話を聞いていないから情報の断絶も多いので、結果として凄く時間がかかりますね。

 

我々のカスタマーサクセスも最初、オンボーディング、要は導入支援の最初の段階でキックオフを実施するんですけれど、スタートアップであれば最初から施策の話に入れる。けれど大企業だと、そもそも導入した目的は何でしたけって、ファシリテーションをつけて何人かで議論を始めるですよね。例えば15人とか来て、3人ずつ分かれてみんなで考えましょう、みたいな。でも、こういうステップが凄く重要なですよ。

 

つまり、ビジネスのやり方が根本から違うんです。

 

ビジネスにおける成果という点で言うと、スタートアップは導入が早くてカスタマーサクセスの負担も軽い。だけども、そんなに大きく伸びない。

 

エンタープライズは導入が大変、カスタマーサクセスの負担も大変。ただ、大きく伸びていく可能性がある。むしろ導入後が本番で、いろんな部署に利用が広がったり、グループ会社に広がったり、そういうアカウントプランをカスタマーサクセスに組み合わせて組み立てていくことが凄く重要。

 

こうしたことは、別に日本に特有ではなくて、アメリカでもそうらしいですね。じゃあ日本だと特に難しい理由は何なのかっていうと、経験が流れてこないところだと思うんです。

 

SaaSビジネスをはじめるスタートアップは多い。これは別にアメリカでも変わらない。

 

ただ創業者の経験がまず違う。日本だと、創業者が 20代とか学生の方とかが多くて、それ自体は素晴らしいことですけれど、例えば 30代後半とか 40代とか、大企業でエンタープライズの中身を知り尽くす経験をしてからSaaSを起業するような人は、やっぱりまだまだ少ない。

 

これはクラウドサービス特有の問題じゃなくて、日本の起業文化の中で、シニアな人、経験豊富な人が起業するケースっていうのが、凄く少ないということなんですね。

 

実は私、起業家のライブ配信サービスっていうのをやっていて。その時にシニアな起業家にスポット当てたい、って凄く思ったんですよ。でも、いないんですね。本当に見つけるのが難しい。もともと数が少ないし、メディアに露出しない。

 

アメリカのカンファレンスでは、それこそSaaStr(注;サースター。サンフランシスコで毎年開催されるSaaS経営者向けビジネスカンファレンス)でも、シニアな方の登壇が多い。もちろんアーロン・レヴィ―(注;Box創業者。1985年生れ。19歳大学生の時にBox事業を発案、30歳の時に上場を果たす)みたいな若い人もいますけど、でも、 40代50代の人もガンガン発信していて。あそこが、米国は違いますよね。

 

つまり、日本で特に難しい理由の1つは、大企業での経験が豊富な人が起業したり、シニアなエグゼクティブとして立上げ早期のスタートアップに参画していくっていうケースが少ないこと。

 

もう1つは、現場の流動性も少ないこと。大企業に対して営業する職種なんて日本にたくさんあるじゃないですか。アカウントプラン作ってシッカリやるというようなことは常識ですよね。

 

ただそこで 10年経験があって、しっかり成果を出していて、自分なりの組織攻略の方法論を持ってるような人がスタートアップに流れてくるかっていうと、凄く少ないんですね。人材の流動性自体が少ないですし、大企業からスタートアップに参画するのも、最近増えてきたのは事実ですけれど、まだまだ少ない。給与格差も凄くあります。

 

要は、起業する人や、事業の初期状態を支援する経営のところ、そして実際のセールスっていう現場のところ、その両方で流動性や多様性が少ないことが、日本における結構大きなイシューだと思います

 

エンタープライズを攻略することの価値や意義とは

弘子:

それほど難しくて経験も流れてきにくいエンタープライズを攻略することの意義は何でしょう?

 

衡:

昨年の9月に、FORCASのユーザーさんにたくさん会った時期があるんですね。FORCASのユーザーさんの層が少し変わってきていて、そこにちゃんと価値を作っていかないといけない、そのためにはお客さん 1人1人とお話をして、具体的な課題を共有してもらうことが凄く大事だな、と思って話した時期があるんです。

 

その時、名前は伏せますが、社員数万人いる会社さんが、それまで大規模な日本の製造業の会社の中で傍流なマーケティングが大きな価値を発揮していくのは難しかったのが、FORCASを使うことでマーケティングの効果とかビジョンを定量的に説明できるようになった、と。

 

ちょっと補足すると、FORCASって企業に色んな情報を付与してマーケティングの狙うべきターゲットを可視化したりするサービスなんです。

 

その会社さんでは、FORCASを使うことで、マーケティング側から営業に対等に会話してインサイトをもたらすことができて、実際に数千人、数万人いる営業の行動が変わっていった、っていうことを聞いたんです。

 

いや、正直こう、震えるほど感動してですね。こういうことがやりたくて事業を作ったんだなって。

 

FORCASを作った目的は、営業って無駄なことが多いじゃないですか。ひたすらアポ獲得ばかりに奔走して、電話しまくるみたいな。ビルの 1階から屋上まで全部の会社を訪問して名刺交換するみたいな。それって、不幸せしか生まないと思うんです。

 

素晴らしいサービスを作ることに集中できて、素晴らしいサービスがなめらかに広がっていく社会を作りたくてFORCASを作って、これまでやってきました。そうした想いが、本当に一部だけども実現している、っていうのを実感できたんです。

 

もちろん、スタートアップの皆さんや比較的小規模な会社の方にお使いいただいて、リアルに価値をしっかり届けるのも凄く楽しい。けれど、本当に社会を変革できる、その可能性に自分はチャレンジできてる、ってことを、やっぱり深く実感して、震えるほど感動しました。

 

もちろん、先程お話ししたように、ビジネス的にも大企業に入っていくことは絶対に必要。リードタイムは長いし、カスタマーサクセスの工数もかかるけれども、市場は大きくて、そして段階的に広がっていくものなのでやる意義がある、という側面もあります。

 

けれども、恐らくスタートアップを始めた皆さんは、社会をこういう風に変えていきたいという強い思いがあって始めたと思うんですね。そうした時に、大企業の中で実際にリアルに価値を発揮できるっていうことは、その想いが実現してるって実感できること。

 

なので、絶対、すべてのSaaS サービスの皆さんにチャレンジしていただきたいなと思いますね。いやでも、ほんと嬉しいんですよね、やっぱり、着実に価値が社会に広がっていくっていうのが。

 

後編:エンタープライズ攻略のステップ1~5、に続く)

 

※インタビュー動画(こちら)もぜひ併せてご覧ください!

 

(以上)

 

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