カスタマーサクセスをスケールさせる方法

by Namiko Nakamori

 

こんにちは!Customer Success Japan(当サイト)の執筆を担当する中森菜美子です。

 

「事業の成長にカスタマーサクセスのリソースが追いつかない!」という悩みは、カスタマーサクセスにおいて「あるある」な悩みではないでしょうか?!

 

担当のカスタマーサクセスマネジャーが張り付いて支援すればカスタマーは成功にたどりつけるでしょうけれど、カスタマーの数が日々増え続ければすべてをカバーすることは不可能です。

 

対策として、少ないリソースや工数で大きな成果を得られる「スケールする」カスタマーサクセスの組織や仕組み作りに関心が集まっています。

 

米国でも、カスタマーサクセスの「スケーラビリティ」は注目の的です。なお「スケーラビリティ」とは、ある事業が成長する時に必要な資源/費用の増加スピードが収益の成長スピードを超えないで急成長できる能力のことを意味します。

 

カスタマーサクセスをスケールさせる方法には様ざまなベストプラクティスが出てきていますが、今回、中でも重要な「セルフサービス」について取り上げます。

 

1. スケールの鍵:セルフサービス(カスタマーの自己解決)

「セルフサービス」とは、カスタマーが疑問・質問・課題を抱えた時に企業に対して問い合わせすることなく自力で解決することです。具体的には、ヘルプページやナレッジベースにアクセスしたり、使い方についての動画を見たり、カスタマー同士のコミュニティで質問・アドバイスをし合ったりするなどです。

 

カスタマーから受ける問い合わせへの対応に時間を取られていては、カスタマーサクセスをスケールさせることはできません。問い合わせや相談への対応という守りの業務はできるだけ減らして、攻めの業務を増やしていく必要があります。

 

セルフサービスの対策を強化できれば、カスタマーサクセスの業務量を削減できるだけでなく、カスタマーの満足度が向上することにもつながります。

 

ある調査によると、「79%のカスタマーは人と話すカスタマーサポートよりもセルフサービスの方を好む」という傾向が明らかでした。人とのやりとりに時間をかけることなく自分で問題を解決したいと考える人が増えています。なお上記の調査結果は、セルフサービスに深い知見を持つアーロン・フルカソン氏による記事(カスタマーサポート体験を根本から変える第3の波:「セルフサービス」)で紹介されています。こちらもぜひご参照ください!

 

2. セルフサービス強化のステップ

セルフサービスによる問題解決を強化するには何をすればよいでしょう?以降、具体的なステップを紐解いてみたいと思います。

 

ステップ1:セルフサービス戦略を立てる

最初に、自社の状況に合った戦略を立てます。

 

セルフサービスを強化する、というとヘルプページを強化することから検討を始める企業が多いです。しかし闇雲にヘルプページを増強するだけでは、工数をかけた割に期待するような成果が得られない可能性があります。

 

セルフサービスを強化するには様々な選択肢があります。セルフサービスによって得たい成果を明確にし、その実現が見込める形をまず検討する必要があります。

 

以下のような問いは、現状を把握してセルフサービスの適切な形を検討する助けになります。

・カスタマーからサポートチームに対する問い合わせには現状どんな内容が多いか?

・コンサルタントがカスタマーから直接聞かれる相談はどのような内容が多いか?

・よく問い合わせや相談をしてくるカスタマーに共通点はあるか?

・カスタマーはどのような状況・環境で自社のサービスを利用してるのか?

 

以下のような問いは、セルフサービスの目的を明確化し、PDCAを回すことに役立ちます。

・セルフサービスによって誰の工数をどのくらい削減したいか?

・削減できたかどうかをどのように計測するか?

・特にどのような内容の問い合わせを削減したいか?

・特に問い合わせしてこないようにしたいカスタマーの属性はあるか?

 

ステップ2:セルフサービスのフローを設計する

戦略が明確になったら、次はカスタマージャーニーを作ってセルフサービスを具体化します。

 

カスタマーサクセスチームが既に定義したジャーニーがあれば、それをセルフサービスの観点から見直すのが最も効率的です。具体的には、カスタマーが困った時にセルフサービスのリソースに容易にアクセスして解決策をみつけ、自力で解決できる状態にするのに必要なカスタマー接点とその内容を洗い出します。

 

例えば、キックオフ資料の目立つところにナレッジベースへのアクセス方法を記載するなどです。カスタマーのITリテラシーに次第では、その場で検索して体験してもらう必要があるかもしれません。

 

ステップ3:セルフサービスのコンテンツを制作する

次はいよいよコンテンツを制作します。

 

ステップ1で立てた戦略(ターゲットとするカスタマーの特徴、特に防ぎたい問い合わせ内容など)に沿ってコンテンツを作成します。

 

この時、カスタマーの反応を計測できるようにしておくことが大切です。例えばヘルプページであれば、問題を抱えたカスタマーが適した回答にたどりつくことができたかどうか、コンテンツを見て実際にアクションに移すことができたのかどうか、すんなり内容を理解できたのかどうかなど、意図した通りの成果を出せたかどうかを確認できるようにしましょう。

 

コンテンツの閲覧数や閲覧時間、リアクションボタンのクリック数(ほぼすべてのヘルプページ関連サービスでは「この記事で問題は解決できましたか?」などの質問と簡単なリアクションボタンを設置できます)、コンテンツ閲覧後の関連機能の利用履歴などによって成果の計測が可能です。

 

ステップ4:セルフサービスを改善する

セルフサービスの仕組みは、リリースした後も継続的に改善を重ねてより大きな成果を追求します。

 

ステップ3で仕込んだ計測結果に基づき、コンテンツが意図した通りに機能しているかどうかチェックすることで改善点が明確になるはずです。

 

以上がセルフサービスを強化するための4ステップです。

 

このようなステップを踏んでコンテンツを制作しPDCAサイクルを回し続けるにはそれなりに工数がかかりますが、そこから得られる成果は加速的に増加し続けます。また、早く取り組めばそれだけカスタマーサクセスマネジャーの業務を早くから効率化でき、結果として「スケールする」カスタマーサクセスも早期に実現します。

 

冒頭で述べた通り、カスタマーサクセスをスケールさせるには、セルフサービス以外にも重要なトピックがあります。フィンテック界のリーダー企業であるSquare社は、セルフサービスを含む3つの柱を実践しています。

 

参考まで、米国のベンチャーキャピタル、FirstMark社のブログ記事からSquare社の事例を以下にご紹介します!


 

スケーラブルなカスタマーサクセス戦略をたてる方法

 

カスタマーの満足度は、プロダクトが成功しているかどうかを判定する究極の指標です。満足度を高く保つためには、カスタマーが疑問や不満を示した時の対応内容やスピードが非常に重要です。

 

カスタマーの数が比較的少ない段階では、チームが小さくてもカスタマーの満足度を高く保てます。しかし、スケーラブルなカスタマーサクセスの戦略をもっていないスタートアップにとっては、カスタマーの数が急速に増えるにつれ、満足度を高く保つことは非常に困難になっていきます。

 

サポートチームへの問い合わせを未然に防いだり、優先順位が高くない問い合わせはカスタマーに自力での解決を促したりすることが大事です。

 

最も重要なことは、トップアカウントへの対応などの優先度の高い仕事にカスタマーサクセスチームのリソースを集中させることです。そのためには、スケーラブルなカスタマーサクセス戦略が適切に実行されている必要があります。

 

FirstMark社は先日、投資先企業のカスタマーサクセス部門のリーダーたちを集め、Square社でスケーラブルなカスタマーサクセスの責任者を務めるケイティ・コウヴィ氏の話を伺う機会を持ちました。

 

Square社は時価総額290億ドルを誇るフィンテック界のリーダー企業です。同社のサービスは何百・何千社という数多くの企業にとって毎日の業務に必要不可欠なツールなため、カスタマーからの問い合わせにはできるだけ迅速に答える必要があります。

 

彼女のチームは5つの独自ルールを設けることで、1対1でサポートする問合せ量の10~12倍という大量の問い合わせをカスタマーに自己解決してもらうことに成功しています。

 

ケイティによると以下3つが成功の秘訣です:

(1) 問い合わせの予防

(2) セルフサービス(自己解決)の促進

(3) カスタマー同士のコラボレーション

 

(1) 問い合わせの予防

1つ目は、問い合わせの発生を未然に防ぐことです。ケイティはカスタマーサクセスチームの中に「プロダクトインサイトチーム」と「バグ対応チーム」をおくことを推奨します。

「カスタマーが問題に出くわす前に問題を解消できれば、無限にカスタマーサクセスをスケールさせられます」

 

プロダクトインサイトチームは、少数のアナリストで構成されます。彼らのミッションは、問い合わせに関するデータを元に今プロダクトに何が起こっているかを把握し、数多くの問い合わせに繋がるプロダクト上の問題を特定することです。そのために、電話やメールなどの1対1チャネルだけでなくSNSやオンラインコミュニティのような1対多チャネルも含む、あらゆるカスタマー接点から寄せられた問い合わせすべてをレビューします。

 

バグ対応チームは、プロダクトインサイトのチームと同じくらい重要な役割を担います。彼らはカスタマー接点のある全部門に寄せられたバグをレビューし、対応すべき重要なバグを選定して再現し、実際に対応が必要なバグのみを開発チームに報告します。彼らがフィルタリングをかけることで、開発チームの工数が大幅に削減されます。

 

学び:

問い合わせ予防を徹底すると、対応に最も多くの時間と工数が必要な問題を特定できるだけでなく、ブランドの信頼性や評判の低下といったより重大な問題を未然に防止できます。ブランドへの信頼や評判が一旦失われると、取り戻すことははるかに難しいため、未然に防ぐことがとても重要です。

 

(2) セルフサービスの促進

2つ目は、カスタマーのセルフサービスによる問題解決です。つまり、カスタマーがウェブサイトやアプリ内のコンテンツを見ることで、ベンダーへ問い合わせることなく自己解決することです。セルフサービスを促せれば、問い合わせの対応工数を削減できるばかりか、カスタマーの中に「自力で問題解決する」という良い習慣を構築できます。

 

ケイティのチームにはコンテンツ制作の専任メンバーがいて、カスタマーの目に触れるサポート関連資料の全てを制作しています。

「メンバーが使うメールのテンプレートから、サポートセンターの全ての記事、カスタマーへの一次対応内容、チャットボットの回答内容の作成、そしてサポート関連資料のライブラリ管理に至るまで、全て彼らの手によるものです」

 

ケイティによると、コンテンツ制作のコツは「マーケターのように考えること」です。マーケターは、適切なタイミングで適切なターゲットにコンテンツを提供する方法を熟知しています。彼らの思考やスキルは、サポート関連のコンテンツ制作に応用できます。

 

コンテンツ制作チームの他に、コミュニティ管理のチームもあります。彼らはコミュニティプラットフォーム上で交わされるカスタマーとSquare社との全コミュニケーションをモニターし、カスタマーが双方向のコミュニケーションをスムーズにとれるようにプラットフォームを改善します。

 

ケイティは言います。

「コミュニティプラットフォームでの会話が素晴らしいのは、それが単なるカスタマー同士のおしゃべりに留まらず、成功事例やプロダクト利用のコツなど、とても役立つ情報を交換しているところです。コミュニティ管理チームは、会話の中でも特に機能面に関するカスタマーの発信内容が正しいかどうかをチェックします。正しくて有用なコメントには「ベストアンサー」タグを付けたり、運営公式承認を示すスタンプを付けたりします」

 

学び:

コミュニティ上の討議内容と自社作成によるサポート関連コンテンツ、この2つのシステムを統合し、重み付けをしたり検索性を高めたりすることでケイティは同社のナレッジベース量を一夜にして3倍に増やした

 

(3) カスタマー同士のコラボレーション

3つ目はピアツーピアのコラボレーションです。ケイティは特にSMB(中小規模の企業)におけるコラボレーションの重要性を訴えています。

「事業経営について学ぶには、他の経営者から知見を得ることが最も良い方法です。ですから、経営者同士のつながりを作ることをとても大事にしています」

 

コミュニティに注力することはSquare社とカスタマーの両者にとってwin-winです。

 

ケイティは、ギフトカードの例を挙げて説明しました。

「アイスクリームショップを運営するカスタマーの話です。彼は私たちの提供するギフトカードを購入してくださっていて、彼のお客さんは子どもたちがそのギフトカードをプリペイドカードのように使えるようにしていました。毎年夏になると、子どもたちやその両親がギフトカードを買いに来て、毎週または毎月そのカードにチャージするのです。ギフトカードをこのように活用する方法は一般的ではありませんでした。彼がコミュニティでこの話を披露してくれなかったら、私たちもその活用方法に気付かなかったでしょう。」

 

(以上)

 

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