国産カスタマーサクセス事例 (1) リクルートマーケティングパートナーズ

 by 弘子ラザヴィ

 

純粋国産のカスタマーサクセス

 

カスタマーサクセスという概念は米国生まれですが、日本でも本質は全く同じ実務が複数生まれています。しかし、カスタマーサクセスという言葉が使われないケースも多く、米国ほど広く認知されていません。

 

そんな純粋国産カスタマーサクセスの存在を世に知らしめたいという想いから、私は日本のカスタマーサクセスリーダーへのインタビュー動画を2017年から撮り続けています。今回はその中から1社ご紹介します。

 

リクルートマーケティングパートナーズ

リクルートマーケティングパートナーズは、「Cheers! Your Life. 人生に、拍手があふれる世界を」をビジョンに掲げ、結婚、まなび、カーライフなどライフイベント領域でビジネスを展開する、多くの方がご存知の日本企業です。同社の主要サー ビス「スタディサプリ」の高校向けサービスでカスタマーサクセスが生まれたお話を紹介します。

 

スタディサプリ(当初は「受験サプリ」)は2012年に登場して一世を風靡しました。5教科18科目の人気講師の”神”講義を含む講義動画4万本以上を、スマートフォンやPCからいつでもどこでも、月額980円?を払えば見放題で学べるオンライン学習サービスです。

 

従来の生徒向け対面講義は、教室の収容生徒数に加えて時間や予算という大きな制約がありました。スタディサプリなら、地域差や所得差という教育環境格差を解消し、インターネットを活用することでいつでもどこでも好きなだけ学べます。その価値は登場した当時も今もとても斬新です。

 

「カスタマーは誰か?」そして「自分たちの提供価値は何か?」を明確に定義した

一般高校生・受験生向けで始まったスタディサプリでしたが、現在は高校でも採用されています。高校向け(toB)サービスは、従来の生徒向け(toC)サービスに先生向けサービスが付加されています。

 

先生はオンラインで宿題を配信して生徒に学習を促したり、到達度テストの結果を踏まえて学習進捗を管理したり、オンラインのコミュニケーションも活かして1人ひとりをきめ細かく指導したりなど、生徒の学習・進学の手助けを効率的・効果的に行えます。一方、生徒は自分のペースで学べ、学校の先生や同級生、先輩から助言をもらって動機付けられながら勉強できます。

 

とても分かりやすい価値あるサービスですが、高校向けサービスを始めた当初の数年間に同社は痛手を負う経験をしました。それは、学校向けサービスを生徒向けサービスの延長で始めてしまい、そもそもカスタマーは誰なのか?、生徒なのか、先生なのか、はたまた保護者なのか?、そしてカスタマーへ届ける価値は何なのか?といった議論が十分ではないまま、マーケットの拡大を図ろうとしてしまったのです。

 

「営業のリクルート」と言えば、誰もがその凄さを否定しないほど強力です。立ち上げて数年で導入校は千校を優に超え、売上も急成長しました。しかし、その後に継続利用に繋がらない高校が多数でてきてしまいました。日本全体で数千校という限られた市場で、本質的な「誰に何を届けるのか」が定まっていない荒い営業をすれば、成長が止まるどころか営業先がなくなってしまうことを意味します。つまり明らかに死活問題でした。

 

そこで同社は基本に立ち戻り、社内でも人によって定義がバラバラだった「カスタマーは誰か?」を徹底的に議論し、「カスタマーは先生である」と定めました。同時に、先生へ提供する価値も明確にしました。即ち、同サービスの提供価値は、スタディサプリというツール自体でも、それが生徒に利用されることもなく、スタディサプリを通じて先生が抱える課題を解決する、要は先生に成功を届けることが価値だという点を明確にしたのです。

 

成功の具体的な内容は「生徒の成績が上がり希望の大学に進学する」、「成績がふるわない生徒に学習習慣がつく」、「指導によい評判がたち入学希望者が増える」など先生によってさまざまです。しかし明解なのは、「利用される」こと自体が目的ではないということです。どれほど多く利用されても、先生が成功を手にできなければ価値を提供したことになりません。

 

教育はそもそも時間のかかる世界です。教育を使命とする先生へ成功を届けるのは一筋縄ではいきません。そこで、成功を届けることを短期で一足飛びに達成しようとしないことも決め、段階的に価値を提供していく道筋を明確にしました。こうして「スタディサプリというツールを入れて終わり」ではなく、必要なら導入先のシステムガバナンスを一緒に考えたり、悩んでいる先生の相談相手になったりなど、「買っていただいた後が大切」を追求する行動を広げていったのです。

 

「カスタマーへ成功を届ける」を追求したら売り方が変わった

高校向けサービスを始めた当初は、「カスタマーは誰か?」や「カスタマーの成功は何か?」を考えるよりも短期の事業成長が優先されました。つまり、ICT化や動画活用などの先進ニーズがある学校に狙いを定め、「全生徒への導入」よりも、比較的受け入れやすい「希望生徒(スポット会員)への導入」を優先して営業しました。結果、新規顧客の獲得という意味では大成功を収めましたが、サービスが継続して活用される状態に至りませんでした。

 

カスタマーは先生だ、先生に成功を届けるには全生徒がツールを使うことが大切だと誰もが納得した後は、「全生徒への導入」へ営業の舵が一気にきられました。

 

ただし営業の難易度は上がります。そこで営業戦術を「型」として具体化したプレイブック「スタディサプリスタンダード」を作成し、全営業担当へ時間をかけて徹底的に浸透させる努力をしました。同時に、先生の成功に繋がる「活用提案」をマネジメント層が意識して推奨し、勉強会や事例共有を積極的に推進したり、ナレッジ推進を表彰したりもしました。

 

活用提案型営業を上手く展開し同社内の栄えある賞を獲得した向後俊介氏が語る:

「先生の教育ポリシーに注目します。ただ、教育ポリシーは正面から聞いても大抵教えてもらえず、言語化のハードルも高いです。そこで僕は、先生に普段どんな授業のスタイルをとっているのかを尋ねます。そこから想像して、その先生が最も大切にしていることをつきとめています」

 

まだ同氏は、先生の希望にあった使い方を提案することで発想の転換を促すため、さまざまなスタディサプリの使い方事例を頭に蓄積しています。

「『生徒は授業の動画なんて見ない』と思い込んでいる先生がいました。僕は(見る・見ないを議論せず)先生の抱える課題やその先の計画を質問しました。すると「自学自習の時間を増やしたい」という課題を抱えていることが分かりました。そこで動画に付属されている紙プリントを宿題に出すことを提案し、生徒が家で宿題をしていて答えにつまったらすぐ動画を観て解決できるというメリットを伝えたところ、「確かに、これは使えるね」と納得してもらえました」

 

向後氏の例は「カスタマーへ成功を届ける」を追求することで売り方の行動が大きく変わった良い実例です。

 

成功を届けるためにプロダクトと営業が一枚岩になる仕組みを入れた

営業が短期の売上を優先していた頃は、プロダクトも営業の声に従い、売上の最大化に繋がる新機能を開発して納期通り納品することを優先していました。そして、売った後のプロダクトがカスタマーにどう活用されているのかへ注意を払うことは次第に優先順位が低くなっていました。

 

先生へ成功へ届けることが大切だという点を明確にしてからは、プロダクトも大きく変わりました。プロダクトの価値は先生の成功へ貢献することだとし、提供価値の大きさに基づいてプロダクトの開発優先順位を決める方針に変えて、そのための仕組みを取りいれたのです。

 

また、営業とプロダクトのベクトルを合わせるため、両者のスローガンとKPIを同期させ、プロダクトの活用データを可視化するダッシュボードを開発し、営業が活用データを基に先生とコミュニケーションできるようにもしました。

 

業績に貢献する大きな成果が生まれた

カスタマーサクセスを推進した結果、目覚ましい成果が実現しました。営業の難易度が高い「全生徒へ導入」する高校の比率はなんと約8割まで向上しました。さらにネガティブな問い合わせは大きく減り続け、非常に高いリピート率が安定して続く状態になりました。加えて、カスタマーの効果実感が進んだことで、アップセルや新規開拓の推進にも弾みがつきました。

 

結果、売上は改革前から一層大幅に増加、さらに将来も力強い成長が見込める事業へと生まれ変わったのです。

 

リクルートマーケティングパートナーズの高校向けスタディサプリ事業は、カスタマーサクセスを推進することで、目覚ましい成果と将来の展望を手に入れました。現在はこの成功事例をグループ全体に普及させる活動を推進しておられます。

 

以上、リクルートマーケティングパートナーズで生まれたカスタマーサクセスの話を紹介しました。

 

なお同社の執行役員である徳重浩介氏(肩書は取材当時)が、同社のカスタマーサクセスをリードした経験を披露されるインタビュー動画もぜひ併せてご覧ください!

(以上)

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